第14話 忘れ去られた真実

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第14話 忘れ去られた真実

「ねえ、私と悠斗って、前はどんな感じだったの?」 その問いを涼と玲奈に投げかけたのは、いつもの放課後、教室の一角だった。クラスメイトが徐々に帰り支度を始める中、私は机に肘をつき、二人の表情をじっと見つめていた。 玲奈が少し驚いた顔をしたが、すぐに苦笑いを浮かべた。 「どうしてそんなこと聞くの?」 涼は沈黙を守りながら、私たちのやり取りをじっと聞いている。 「いや、記憶がないからさ……。悠斗はすごく優しくしてくれてるけど、なんかしっくりこないっていうか、よくわからなくて」 その言葉に玲奈がふっと小さくため息をついた。 「そっか。やっぱり記憶が戻らないままだと、そう感じるよね」 玲奈は何かを思い出すかのように、少し考え込む仕草を見せた後、口を開いた。 「最初はね、沙耶と悠斗って本当にラブラブだったのよ。なんか、手をつないで歩いてるところとか、周りから見てもすごく仲良しに見えたし、沙耶もよく悠斗のことを話してた。最初の頃は、すごく楽しそうだったんだよ」 「そうだったんだ……」 私は彼女の言葉を聞きながら、悠斗の優しい笑顔を思い浮かべた。確かに、今も彼は優しいし、周りから見れば完璧な彼氏に違いない。でも、その「昔の私」と今の私が、どうしても一致しない感覚が拭えなかった。 玲奈は言葉を続けた。 「でもね、途中からちょっとずつ雲行きが怪しくなってきたの。沙耶も気づいてたと思うけど、二人ともよく喧嘩するようになったよね。何か小さなことがきっかけで、しょっちゅう言い合いしてた」 私はその言葉を聞いても、何一つ心当たりがなかった。ただ、玲奈の言う通りなら、悠斗と私は仲良しだった時期があって、その後で衝突が増えたのかもしれない。 「喧嘩って……どんな感じだったの?」 私は少し不安になりながら尋ねた。 涼がようやく口を開いた。 「まあ、最初はただのすれ違いって感じだったよ。好きなものとか、予定とか、ちょっとしたことでね。でも、そのうちにだんだん大きな問題になっていったんだよな。なんか、お互いに譲れないことが増えたっていうか……」 涼の言葉にはどこか慎重な響きがあった。私に過去のことを思い出させないように、気を使っているのかもしれない。でも、私は知りたかった。悠斗との関係がどうしてそうなったのか、そして今の自分とどう繋がっているのかを。 玲奈が頷いた。 「そうそう。最初は本当にラブラブだったのに、だんだん喧嘩ばかりになって、最後には沙耶が愚痴ばかり言ってたよ。デートしても楽しくないって、何度も言ってた」 「……そうだったんだ」 私の胸の中に、今まで感じたことのない重さがじわじわと広がっていった。悠斗の優しさに惹かれていた自分が、過去の私とは違うという現実が、より一層鮮明になっていく。 「それで、最後にどうなったの?」 私は恐る恐る尋ねた。 玲奈は少し顔をしかめた。 「うーん、詳しいことは私も覚えてないけど、たぶん沙耶のほうが限界だったんじゃない? あの時、何度か『もう別れるかも』って言ってたし……でも結局、どうなったかまでは聞いてないの」 涼も同意するように頷いた。 「俺も詳しいことは知らないけど、確かに二人の関係は終わりかけてたような気がする。まさか、事故がこんな形で関係を再び繋げるなんてな」 彼の言葉が、私の中で何かを引き裂くように響いた。悠斗と私の関係は、もうすでに壊れかけていたのか。それを知らずに、私は彼の優しさに甘えていたのだろうか。 ++++++++++ 家に帰ってからも、そのことが頭から離れなかった。母に聞いてみようと思い、夕食後にリビングでくつろいでいる母さんの隣に座った。 「ねえ、私と悠斗って、どんな感じだったか覚えてる?」 母さんは少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに穏やかな笑顔を見せた。 「あら、急にどうしたの? 悠斗くんのこと?」 「うん。記憶がないから、何も覚えてなくて……。昔の私たちって、どんな感じだったのかなって」 母さんは少し考え込むようにしてから答えた。 「正直、あんまり詳しくは知らないのよね。何度か写真を見せてもらったことはあるけど、あまり二人の関係には口出ししなかったから……でも、写真ではすごく楽しそうに見えたわよ」 母さんの言葉も、玲奈や涼と同じように、私に対する答えがはっきりしなかった。彼女も、私と悠斗の関係がどうだったのかをあまり知らないのだ。 「そうなんだ……」 「沙耶、何か心配事でもあるの? 記憶がないからって、無理して思い出さなくてもいいのよ」 母さんの優しい言葉に、私は少しだけ救われた気がしたが、それでも疑問は消えなかった。悠斗が見せてくれる写真や動画には、笑顔の私が映っていたけれど、その背後に何があったのかは、誰も詳しくは知らない。それが、ただの表面だったのかもしれないと思うと、胸の中に冷たいものが広がっていった。 ++++++++++ その夜、私はベッドの中で何度も目を閉じ、思い出そうとした。けれど、何も浮かんでこない。記憶は空白のまま、悠斗との過去は私の手の届かない場所にあった。 「私は本当に、彼と幸せだったんだろうか?」 その問いに答えられるのは、自分しかいないはずだ。でも、今の私は何も知らないまま、悠斗の優しさに揺れ動いている。もしかしたら、それこそが彼の望んでいることなのかもしれない。彼が望む「私」に近づくことで、何かが隠されているのではないかという不安が、ますます大きくなっていった。
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