第31話 罠と恐怖

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第31話 罠と恐怖

玄関のインターホンが鳴り響く。私は体が硬直し、鼓動が耳元で大きく響いた。誰が来たのか――頭の中で最悪のシナリオが繰り返される。悠斗がそこにいるのではないかという恐怖が、全身を支配した。 「誰…?」 声が出ない。足が動かない。インターホンが再び鳴る。強い不安に駆られながら、スマホを手に取り、画面を確認する。何も表示されていない。悠斗からの連絡も、涼からのメッセージもない。ただ、玄関の向こう側からの音だけが現実を突きつけてくる。 私は震える手でインターホンのモニターを確認する。しかし、画面には誰も映っていなかった。ドアの前には誰もいないように見える。それが逆に恐ろしかった。誰もいないのにインターホンが鳴るという事実が、私の心をさらに追い詰める。 「気のせい…?いや、そんなわけない…」 自分に言い聞かせながらも、どうしてもその場から動けない。悠斗が私を見張っている感覚が、再び心に重くのしかかる。彼はすぐそばにいる。そんな妄想が頭を支配し、恐怖で思考が遮られる。 その時、再びインターホンが鳴った。今度は、まるでドアを叩くような激しい音だった。胸が締め付けられ、息が詰まる。何とかして冷静になろうと、深呼吸を試みたが、かえってパニックを引き起こすだけだった。 もう限界だ――逃げなければ。 私は思わず後ずさりし、リビングに駆け込んだ。スマホを握りしめ、震える手で涼にメッセージを送ろうとした。だが、その瞬間、画面に新しいメッセージが表示された。 「外に出ろ。」 送り主は悠斗だった。私の心臓は一瞬止まったかのように感じた。彼が私を監視している。確実に、すぐ近くで。 どうしよう――頭が真っ白になり、冷静な判断ができなくなった。彼がどこかに潜んでいるのか、それともすぐに現れるのか。逃げるべきか、それとも警察に連絡すべきか。考える暇もなく、私はただ恐怖に押しつぶされそうだった。 「涼…」 思わず口から彼の名前が漏れた。涼ならこの状況を何とかしてくれるはずだ。だが、涼に頼ることが本当に正しいのか、私にはわからなかった。彼自身も何かを隠している。彼の存在が私にとって安全なものなのか、それさえも今は疑わしい。 しかし、悠斗の脅威が目の前に迫っている今、頼れるのは涼しかいない。私は彼にメッセージを送った。 「涼、助けて。悠斗がいる。」 送信ボタンを押すと同時に、再びドアを叩く音が響いた。今度は明らかに誰かが強くノックしている音だった。鼓動が早まり、全身が震える。 何とか冷静になろうと、深呼吸を繰り返すが、震えは止まらない。悠斗がそこにいるという恐怖が、私を支配していた。 ++++++++++ しばらくして、スマホが震えた。涼からの返信だ。 「すぐに向かう。家を出るな。」 そのメッセージを見て、私は少しだけ安心した。涼が来てくれる――それだけが今の私の希望だった。ドアの外に誰がいようと、涼が来てくれれば何とかなるはずだ。私はその場でじっと待つことにした。 時間が経つのが恐ろしく遅く感じられた。涼が来るまでの間、何度も外の音に耳を澄ませたが、それでも不安が募る。悠斗がいつでも現れるのではないかという恐怖が、私の心を掴んで離さなかった。 そして、ついに玄関のチャイムが鳴った。今度はインターホンのモニターに涼の顔が映っていた。私は安堵のため息をつき、ドアを開けた。 「涼…」 涼の顔を見ると、涙が溢れてきた。彼はすぐに私を抱きしめ、背中を優しく撫でてくれた。その温かさに、私は少しだけ落ち着いた。 「大丈夫、俺がいるから。」 涼のその言葉に、私は少しだけ勇気を取り戻した。彼がいれば、この恐怖から逃れることができるかもしれない。私は涼に全てを委ね、彼の言葉を信じるしかなかった。 「悠斗が…悠斗が私を監視してる。あのメッセージも、きっと彼が送ってきたんだ。」 私は涼に、悠斗からのメッセージを見せた。涼はそれを一瞥し、真剣な表情で考え込んだ。 「やっぱり、奴が関わっていたか…でも、大丈夫だ。俺が君を守るから。」 涼の言葉には強い決意が感じられた。彼がいる限り、悠斗の脅威からは逃れられる――そう信じたかった。 ++++++++++ 涼が私を連れ出すため、外の状況を確認しに行くという。私は彼の後に従い、静かに外に出た。夜の冷たい風が、肌に突き刺さるように感じられた。 周囲を見回したが、悠斗の姿はどこにも見当たらない。私たちはそのまま家を離れ、少し離れた場所に待機しているという涼の友人のところへ向かい、そのまま車でその友人の家に向かうことにした。 「ここなら、しばらくは安全だと思う。君が落ち着くまで、俺がそばにいるから。」 涼の言葉に、私は再び安心した。彼がいる限り、何とかなる――そう信じたい。しかし、心の奥ではまだ不安が消えなかった。悠斗がどこにいるのか、何を考えているのか。それが全く読めないからこそ、恐怖が私を追い続ける。 ++++++++++ 車の中で私は再びスマホを確認した。悠斗からのメッセージはそれ以降届いていなかったが、その沈黙が逆に不気味だった。 「悠斗は何をしようとしているの?」 その疑問が頭から離れないまま、車は暗い街を走り出した。
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