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【3】
受験を終えて、春から真理愛は大学生になる。
この家から楽に通学できる大学のため、生活そのものは大きくは変わらないかもしれない。
「まあここならいくらでも通える大学はあるけど、そこに拘る必要なんてないんだ。こう見えてもパパ、真理愛のためにちゃんと貯金してるから! 自宅通学できなくても、学費も一人暮らしの費用も心配いらないから遠慮なんかするなよ」
「ありがと。でもあたし、遠くの大学で『ここでどうしてもこれやりたい!』みたいなのないし。家から通える範囲でも十分希望に合う学校あるから」
父に告げた通り、妥協して諦めたわけでも何でもない。
自分でよく考えて、その結果選んだ大学なのだ。
父はまだ四十過ぎだが、祖父母はもう七十代だ。
真理愛の大切な家族が、この先いつまでも若く元気でいてくれるとまでは楽観していない。
父とも、一生傍で暮らせるかどうかわからなかった。
まだ高校生で十八歳の真理愛には想像もつかないが、この先家族以上に愛して共に過ごしたい相手ができる、かもしれないのだ。
だからこそ、せめて今だけでも離れたくはなかった。
「もしいつかこの家を出るとしても、これだけは持ってく。──あ、あとアルバムも!」
まだ本棚に戻せないままの絵本をそっと胸に抱き締める。
この絵本の中の満天の星空が、幼い真理愛の希望のすべてだった。
そこから派生した、父と並んでベランダで白い息を吐きながら見上げた夜空も、部屋に入った真理愛の冷えた身体に対する祖父母の気遣いも纏めて全部。
「真理愛ちゃん、ご飯よ~」
「あ、はーい! いま行く」
祖母の声に、改めて我に返り絵本をそっと本棚に戻して部屋を出ると階下のダイニングに向かった。
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