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「お部屋の掃除してたんでしょ? 今日は全然降りて来なかったわねえ」 「うん。ご飯の用意手伝わなくてごめんね、おばあちゃん。──あたし、掃除の途中で絵本見つけて読んでたの。『きらきらをさがしに』って、おじいちゃんが最初に買ってくれたんだよね」  土曜の夜に家族四人で囲む食卓で、食事を終えた真理愛は祖母の言葉に返す。 「真理愛、あれ好きだったよな。おじいちゃんが他にもいっぱい買って来てパパ全部順に読んだけど、あの星の絵本が一番好きで『もう一回』っていつも言われてた。もっとお姫様のとか絵がカラフルで可愛いのとか、子どもが好きそうなのあったのにさ」 「そうだったわねえ。絵本が良かったのかおじいちゃんがお遊戯みたいにしてたのが可笑しかったのか、真理愛ちゃんが初めて笑って……。おばあちゃん、何年経ってもそれだけは忘れないわ」  この話になると、祖父母の表情は昔からまったく変わらない。  嬉しそうな笑みを浮かべる祖母と、真理愛を想って喜びを表したいのか、揶揄うような祖母に怒りたいのか複雑そうな祖父。 「その『笑った』のは覚えてないんだけど、あの絵本はあたしの『家族の始まり』に繋がってるみたいなもんだから。ぼろぼろになっても絶対捨てらんない」 「おじいちゃんもその時はそこまで考えてなかったんだよ。『本屋さんで絵が綺麗だからって薦められた』って言ってたくらいで。なあ、父さん? ──でも『運命』ってそういうものなのかもしれないな」  父の言葉は本質を言い当てている気がした。  。  間違いなく、あの絵本は真理愛の、──真理愛と家族の歴史に大きな意味を持つ一冊だ。  どれだけ古くなっても、だからこそ誰も「汚いから新しい本に買い替えよう」とは言い出すこともなかった。
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