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【1】
「あ……」
自室の清掃中。
埃が溜まりやすい本棚の最下段に目を向けた真理愛は、端に立てたその本に気づき声を漏らした。
古い、傷んだ絵本だった。
『きらきらをさがしに』というタイトルで、祖父が初めて買って来て幼い頃毎晩のように父に読んでもらっていた。
この本の傷みは、夜ごと数えきれないほどに繰り返し読まれた証だ。
懐かしい想い出の中で、色褪せることなく輝いている愛おしい絵本。
もちろんその存在を忘れてなどはいないものの、久しく手に取ったこともなかったと思い至る。
無意識に手を伸ばして取り出し表紙に触れた途端、何か温かいものが流れ込んで来る気がした。
捲ってみると、ページの端は破れを補修した後も目立つ。
しかし、柔らかな水彩で描かれた美しい星空の絵に遥か遠い記憶が鮮やかに蘇った。そして一気に過去に引き戻される。
夜空を旅する小さな星の物語。
自分のいるべき場所を探して彷徨う星が、偶然に出会った流れ星と共に旅を続け、本当に輝けるところを見つけ出すストーリーだ。
ゆっくりと文字の少ないページの絵を眺めながら本を閉じた時、他のすべてを閉め出していたことにようやく気付いた。
「掃除してる最中に見つけた服でひとりファッションショーとかしててさあ。ふっと『あたし、何やってんだよ……』って脱力するのが毎回なんだよ」
「私は本とかアルバムだな〜。ついつい開いちゃってすぐその中に入り込んじゃう」
高校で、仲の良い友人たちと交わした会話が頭に浮かぶ。
「あたしはそういうのあんまりないかな〜。見つけたら『あ、こんなとこにあった。後で見よ』って置いとくほう。でもその状況はわかるよ」
その時は正直ピンとこなかったのだが、彼女たちが語っていたのはまさにこういうことなのだろう。
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