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本当は泣き出してしまいたいくらい怖い。
それでも、ここまで来てしまったことは事実である。
約束した。大切な友人と。
この大舞台を、キラキラしている自分を見てほしい……と。
元々、病弱だった私はよく病院に入院していた。そこで知り合ったのは一人の少女だった。
彼女の名前は「アマネ」とても重い病気らしく、あまり病院から外には出たことがないのだという。そんなアマネに私「ヨウコ」は友達になろうよと言い出した。
きっかけは些細なことで思い出せない、確か音楽が好きって言ってたから話しかけてみたそれだけの事のような気がする。
「ヨウコは私に優しくしてくれる、でも私からお返しできることは何もないよ?」
ふとアマネに言われたことがある。
「友達ってそういうものじゃないよ、一緒にいて楽しいとかそういう感じだよ。」
私はアマネにそう言い返した。
「そっか……、うん。」
アマネはなんとなく納得したようだった。
それから退院しても私はアマネの所に通っていた。
何だか妹ができたようでうれしかったのを覚えている。
そんなある日に、アマネの様態が急変した。
手術は成功したが、リハビリや今後の課題が多いらしい。悲しかった、アマネといつか外で楽しく過ごす。そんなささやかな願いも叶わないのかと。
「ヨウコ、私とはもう会わない方がいい……。きっと悲しませてしまうから。」
病室のベッドでアマネがふさぎ込んでいた。
しかし私はそんなの認めなかった、こんなに頑張っている子が苦しんで終わりだなんて絶対にダメだ。私はアマネの手を握って語り掛けた。
「アマネ、私ね。昔からアイドルになりたかったんだ……。体も弱くてできないと諦めていた。でも私やってみるよ、アマネの事を招待できるくらいすごいアイドルになってみせる。」
「だから……、諦めないで。必ず君を照らして見せるから。」
何も言わずに手を握り返してくれたアマネであった。
それからの行動は早かった、アイドルの養成所に入り、沢山のレッスンをした。
オーディションもたくさん受けてたくさん落ちた、挫けそうなこと、泣き出しそうなことも数え切れなかった。
それでも、それでも大切な人の為に。約束した場所に連れて行ってあげるために。
そして、1年後にようやくやってきた一つのチャンス。
「CDデビューしてみませんか? ヨウコさん」
嬉しさのあまり、言葉が出なかった。
「CDの発売記念ライブもしようと思っています。」
私は、震える声で返答する。
「あ、あの! もしライブをするなら、どうしても招待したい子がいるんです!」
驚いた顔をする担当スタッフに、私は経緯を説明した。
「そういうご事情でしたら、引き受けましょう。」
そして、今ライブ当日の舞台袖に私は立っている。
心臓が飛び出そうだ、でも最前列にアマネのキラキラきた顔が見えた。
怖いものはなくなった、自分に言い聞かせる。
これは、彼女に贈る私からの全力のエールなんだ。
「ヨウコさん、出番です!」
スタッフの方が私に声を掛ける。
「はい!」
返事をして舞台に向かう、拍手とともに迎えられる。
この約束した場所で、全力のエールをあなたに送るね。
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