女子高生コンクリート詰め事件

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女子高生コンクリート詰め事件

 ガァー、ガァー、ガタ。重い脚を引き摺りながら、体中にコンクリートを纏った者が警死庁死霊課死念係の前に現れた。その者は時間を掛けて歩いて冴羽の担当する窓口の前の椅子に座った。依頼者はポツンと言った。 依頼者「む、む…ね…ん、です」 冴羽潤「承りました」  冴羽の声を聴くと依頼者に纏わりついていたコンクリートが剥がれ、元の女子高生の姿に戻った。  冴羽潤の「では、巻き込まれた事件を検証します」を合図に事件の概要が、現れたスクリーンに流れ始めた。  1988年11月25日(金)。女子高生は、自転車でのアルバイト帰りだった。男のそばを通り過ぎようとしたとき、男に自転車を蹴られ、転倒させられた。蹴った男・湊伸司(15)はそこから逃げ去り、赤の他人を装い近づいてきた男・宮野侑史(18)に話しかけられた。「俺は裂丘組の者だ、お前はヤクザに狙われている。助けてやるから言うことを聞くことだ」と言いながら、恐怖で動転している女子高校生を優しい言葉で巧みに説得し、今後の事を話し合おうと乗ってきていたバイクの後ろに乗せた。  彼らは、強姦目的でターゲットを探していた。そこへ彼女が現れたものだった。まんまと女子高生を確保した宮野侑史は、仲間たちが待つ工場跡に連れ込んだ。驚愕している女子高生に向かって宮野は「俺はさっきの奴の仲間でお前を狙っているヤクザだ。俺は幹部だから言うことを聞けば助けてやる。お前の家も見張られている。家族にも危害が及ぶかもしれない」と優しさをまた威圧しながら、性的関係を迫った。女子高生はこの人を失えば、怖い人に追い掛け回される。家族に被害が及ぶ。言うことを聞かなければ。  女子高生は、自分が置かれいる立場を誤ってしまう。極限状態で恐怖に惑わされ、判断力が麻痺していたからだ。  宮野にそのままホテルに連れ込まれ、乱暴された。事を終えると自慢げに悪友の湊伸司の自宅に電話した。出たのは、湊伸司の家に遊びに来ていた小蔵譲(17)だった。宮野から経緯を聞いた小蔵は電話口で興奮し、「女を帰さないでください」と懇願した。宮野は獲物を仕留めた優越感と小蔵からの願望を聞き、英雄気取りになっていた。宮野は、女子高生を連れ出し、仲間の待つ場所へと向かった。そこには、自転車を蹴った湊と小蔵が電話を取ったときに傍にいた渡邊保志(16)がいた。  宮野は事前に仲間に「俺はヤクザの幹部だと言っているので話を合わせろ」と湊と渡邊に伝えていた。宮野は女子高生に「お前はヤクザに狙われている。仲間がお前の家の前をウロウロしているから匿ってやる」と再び女子高生を脅した。女子高生はヤクザと言う異世界の恐怖に怯え、体を蹂躙された後だったこともあり、悪には悪の図式から宮野を信じ、行動を共にしてしまう。渡邊が匿うと言う言葉を使って監禁を宮野に提案した。  宮野は「ほとぼりが冷めるまで、匿ってやる」と女子高生に言い、拘束した。大人しく従う女子高生を見て、鬼畜は本性を瞬く間に顕わにする。  監禁場所となったのは湊伸司の家だった。家には伸司の親がいた。しかし、粗暴の悪い息子に親は何も言えず、見て見ぬふりをしていた。  鬼畜たちは女子高生の服を無理やり剥ぎ取り、性的暴行を代わる代わる犯し、性欲を満たし続けた。多勢で一人を甚振る。いじめの構造だ。被害者が嫌がれば嫌がるほど行動は激しくなり感情も高揚する。宮野は女子高生の陰部の毛を剃刀で剃り、陰部にマッチ棒を挿入し火を点ける。嫌がる女子高生の姿を見て、従属を満たした鬼畜たちは笑っていた。鬼畜たちの行動はさらにエスカレートする。少女の陰部に鉄の棒を出し入れしたり、肛門や陰部にガラス瓶を挿入させ、力いっぱい腹部や臀部を踏んづけて中でガラス破片が体を傷つけられ痛がる様子を見て大笑いしていた。  さらに非道は続く。肛門や陰部に煙草の火を落としたり、フル回転させた電動ドリルで肛門や陰部の穴を甚振り、大量の血がほとばしるのを見て面白がっていた。女子高生は痛みに耐えられず「もう、殺して」と懇願するほどまでに追い込まれていた。食事は少量かゴキブリが与えられた。女子高生の精神は崩壊していった。顔は原型が分からない程腫れあがり、両手両足鋤骨など全身の骨が骨折し、下半身はやけどや水ぶくれ、ドリルの損傷であまりにも無惨だった。トイレに行けるわけもなく、垂れ流す有様だった。その鬼畜は何日も繰り返されていた。恐怖と衰弱で1989年1月4日。女子高生の体は冷たくなっていた。監禁開始から40日も経っていた。 小蔵「拙いですよ」 宮野「ああ、どこかに捨てないとな」  宮野たちは事件の発覚を恐れ、女子高生の遺体を毛布に包み、大型の旅行鞄に入れ、ガムテープを巻き付けた。宮野は以前勤めていた職場からトラックとセメントを借りてきた。現場近くの建材店から砂やブロックを盗んだ。宮野が用意したドラム缶に遺体を隠した鞄を入れ、そこへコンクリートを流し込んだ。そこへブロックや煉瓦を重し代わりに入れ込んだ。固まるとドラム缶に黒色のビニールを被せ、トラックに載せた。トラックに乗り込んだのは、宮野、湊、小蔵だった。三人は東京都江東区若洲の埋め立て地にドラム缶を遺棄した。事件は闇に葬られそうになっていた。  少年たちの犯罪は今回だけではなかった。事件後、暴行事件、ひったりで宮野と小蔵は警察に逮捕されていた。宮野は別の婦女暴行事件で逮捕され、性犯罪は繰り返されている可能性があり、鑑別所で余罪追及の厳しい取り調べを受けた。その際に女子高生の事件が発覚する。宮野は湊、小蔵、渡邊が自白したと勘違いし、刑を軽くするため、諦めたように供述を始めた。供述通り、コンクリート詰めされたドラム缶から女子高生の遺体が発見された。これにより、事件に関与した関係者は次々に逮捕された。  司法解剖の結果、顔は原型が分からないほど腫れあがり、両手両足鋤骨など全身の骨が骨折し、下半身はやけどやドリルの損傷で辛うじて繋がっている悲惨さだった。恐怖の影響により脳は半分ほどに収縮し、溶けていた。胸には針が何本も刺さっていた。髪や歯は全てなく、胃腸にはムカデやゴキブリ、大量の埃やゴミ、ペットボトル二本や大量の精液が入っていた。その残虐非道さは世間周知にはあまりにも酷過ぎた。しかし、その悲惨さを隠蔽しては被害者の苦しみと事件の重大さを周知出来ない。出来なければ同じような犯罪が起こる。人間の欲望は、常軌を逸脱すると集団意識と相まってとんでもない凶器となる。  少年たちは言っている。「被害者が弱かったからだ、強ければ襲いもしない」と。国が防衛力に力を注ぐのは犯罪者の意識の高ぶりを抑止するためだ。そして、少年たちは「俺は悪くない」と嘯く。限度のボーダーラインを喪失した鬼畜たちの行動には歯止めが効かない残忍では言い表せない残虐さを招いてしまう。  裁判は陪審制で行われた。審議の進行と共に事件の残酷さに陪審員が次々に失神していった。  1990年7月20日 東京地裁で第一審の判決公判が開かれた。  主犯格の宮野侑史に懲役17年、湊伸司、小蔵譲、渡邊保志には懲役3年~10年の不定期刑が言い渡された。検察側はすぐさま控訴した。その結果、宮野に懲役20年、小蔵に懲役5年以上10年以下の不定期刑、湊に懲役5年以上9年以下の不定期刑、渡邊に懲役5年以上7年以下の不定期刑が言い渡された。渡邊だけが上告したが棄却された。関係者の刑は確定した。  触法少年に当たらなければ、死刑だったろうと伝えられた少年たちは、それなら、やらなかっただろう、と語っている。死刑は犯罪抑止に間違いなくなっている。  当時の法律では犯行時四人は全員未成年であり、触法少年だった。四人は刑に服して出所後、三人は再び事件を起こし逮捕されている。  45歳になった湊伸司は殺人未遂容疑で逮捕された。宮野侑史は出所後、横山侑史に改名し、パチンコ必勝法で振り込め詐欺の容疑で逮捕されているが黙秘し続け、不起訴処分で釈放されている。マルチ商法・振り込め詐欺で儲けるなど生活の闇は深いが優雅な生活を謳歌しているのには間違いない。しかし、事件関与が発覚すると身を隠していた。  小蔵譲は神作譲と改名し、コンクリ詰め殺人について、「面白かったけど相手が簡単にしゃべらなくなり、抵抗しなくなったのでつまんなくなった。抵抗しているうちは楽しかった」と話し、知人を暴行する際は「おれは人を殺したこともある。殺すぞ」と脅していた。出所後、刑務所で学んだコンピュータ関連の派遣社員として働いていたが自分の過去がばれたのではと被害妄想になり退職。母親に紹介された暴力団関係者を通じ構成員に。知人に対する逮捕監禁致傷で懲役4年の実刑判決を受け、2009年に2度目の出所をしている。小蔵の再犯は宮野侑史の仮釈放の予定を破棄させた。  渡邊保志は地元を引越しした後、実家に引き籠もり、その後、消息不明になっている。 冴羽潤「類に観ない残忍さだな。死をもって償わさせるのは勿体ない。庇う者     も同罪だ。宮野侑史、湊伸司、小蔵譲、渡邊保志には常に狙われ、立     ち向かう勇気や反感を削ぎ落した弱者として常に襲われる被害妄想で     日々恐れる生き様を味合わせてやる」  これを聞いた依頼者は、無念そうな笑みを浮かべながら、成仏の扉に向かって歩き始めた。依頼者は同等の苦しみを加害者に与えて欲しかったに違いない。冴羽は、肛門や性器に電動ドリルを挿入する鬼畜さに憤りしか覚えなかった。目には目を歯には歯を、行うべきだと考えるが、それで被害者の体が元に戻るわけではない。加害者が一生苦しむ。それが唯一の救護策と考えた。  冴羽は依頼者の無念を言霊に込め、怨念玉に変化させて懐に仕舞った。  人間界で犯人たちの刑期は終え、出所した。  宮野は詐欺で得た金で飲み歩いていた。帰宅時にガード下を通った。その前に人影が現れた。 宮野「誰だ、お前」 冴羽「宮野だな、いや横山か、いや、また改名したか」 宮野「何だ、俺はその筋の知り合いが多い。言いがかりをつけるなら覚悟しろ    よな」 冴羽「また、反社の名を借りるのか、変わってないな」 宮野「お前、俺が誰だか、知っているのか」 冴羽「知っているさ、鬼畜だろ。お前が手に掛けた女子高生の無念を果たす」 宮野「刑期は終えた。もう、終わってんだよ」 冴羽「では、女子高生が生き返ったか」 宮野「過ぎたことは過ぎた事だ」 冴羽「そうだな。じゃ、謝罪の印にこれをプレゼントさせてくれ」 宮野「何だ」  冴羽は、内ポケットに手を差し込んだ。宮野は拳銃か刃物かと身構えた。冴羽は「安心しろ」と言いながら怨念玉を取り出した。唖然としている宮野に冴羽は、怨念玉をかめはめ波のように掌から怨念玉を宮野の鳩尾に放った。宮野は気絶した。 冴羽「もう、お前に明日は来ない」  暫くして宮野は目覚めた。もう、朝だった。あれは夢だったのか、宮野は気にするのは止めた。可笑しくなったのはその晩からだった。宮野侑史は、毎晩、夢に魘され眠れなくなった。外を歩けば、「あいつコンクリート事件の犯人だぜ」と幻聴が聞こえて、気が休まる瞬間はなかった。人通りの多い場所や交通機関を利用すると人々の目が冷たく怖くていたたまれない状態が続いた。飲食物は一口食べると虫や排せつ物に見え、食事も出来なくなった。睡眠不足と衰弱で「殺してくれー」と叫びたくなるが声も出なくなった。臭気は、常に糞尿臭か加齢臭の臭いしか感じられなかった。尿道は閉じられ、便も出ない。死にたいのに死ねず、自害さへも許されず、生かされる地獄を命の尽きるまで味わっていた。  冴羽は残党の湊伸司、小蔵譲、渡邊保志に対しても同じ制裁を行った。誰知れず、四人は冥府魔道の無縁地獄に閻魔大王によって落とされた。
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