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響騎さんの言葉に、その可能性は充分あると思って正面から睨むと、それはないと林田さんが口を開く。
「だが佐伯さんと飲んだ時に、育て甲斐のある奴が居る話はした」
どうりで副社長が私なんかのことを知っていた訳だ。
「そんなの、間接的にでも仕組んだ人事じゃないですか」
「いや、それは違うぞ。俺はマキの異動には反対したんだよ。それこそ会長にだって、一から育てた部下を簡単に取られては困ると進言したんだ」
林田さんの意外な言葉に面食らっていると、響騎さんが、それならどうしてなのかと首を傾げて質問した。
「本当に偶然華が俺の秘書に? 俺だって、条件は出しましたけど、他にも人材はいたでしょうに」
「さあな。俺がマキを褒めたことで、それが却って良い判断材料に転じたんじゃないか」
我関せずといったそぶりで、林田さんはしれっと答える。
いくら浦野の戸籍から外れたとはいえ、それでも尚、いまだに自分にどれだけの影響力があるのかきちんと理解して欲しい。
「とにかくまあ、収まるところに収まって良かったじゃないか」
「伯父さん……」
呆れて言葉を失う響騎さんと目が合って、二人揃って頭を抱えつつも、楽しそうに結婚式には呼べよと笑う林田さんに、それ以上文句は言えなかった。
それから更に一時間ほど、林田さんと三人でこれまでの話をして盛り上がると、いよいよお開きにしようと解散することになった。
まだどこかで飲む気らしい林田さんと別れると、酔い覚ましにしばらく歩き、大通りに出てからタクシーを拾う。
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