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 道すがら見つけたコンビニで適当におつまみと飲み物を買い、人混みの流れに沿って会場に向かう。  そして有料の観覧席に到着すると、花火が始まるまで買ってきたツマミを食べながらたわいない話をして時間を潰し、いよいよ花火大会が始まると大空を見上げる。  ドンッと体が震えるほど大きな音がして、大輪の光の花が空に花開くと、響騎さんは私を抱き寄せて綺麗だなと小さく呟いた。  遠い夏の日に、こんな風に花火を見たことを思い出す。あの頃から彼はずっと私の一番大切で大好きな人。 「華?」 「響騎さんとまた花火が見られて嬉しいです」 「……そうだな」  キラキラと輝く花火を見上げながら、失った十年の重みを感じると、悔しくて切なくて涙が出てしまう。  こんなに大好きな人なのに、向き合うこともしないで一方的に切り捨てた。それなのに彼は私の父に吐き捨てられた言葉と向き合って、自分を曲げてまで私を求め続けてくれた。 「感動してるのか」  響騎さんが私の涙を指先で拭う。 「そうみたいです」 「……そうか。なら、そういうことにしといてやるよ」  私を抱き寄せる腕にギュッと力がこもると、響騎さんが私を好きでいてくれたことが、すごく尊いことに思える。 (ありがとうございます)  人目も憚らず響騎さんの頬にキスをすると、彼は驚いた顔をしてから困ったように笑って私の手を握る。  そうして最後の花火が打ち上がるまで、二人で寄り添ったまま大輪の花が咲く夏の空を見上げて過ごした。
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