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そして地元で有名なバイクチーム〈バジリスク〉のリーダーで、悪さをする暴走族と喧嘩しては、片っ端から潰して回ってる危ないヤンキーだとか、物騒な話をよく耳にした。
「来て良かったか?」
「そうですね」
ドンッと大きな音を立てて弾ける花火の音よりも、背中から伝わる彼の鼓動が気になる。
ドクン、ドクン。
そのまま来たから着替える暇はなかったと笑って、見慣れた白いTシャツと、オイル汚れが染み付いた勤め先のツナギの作業着を腰元で結び、足元は不釣り合いなサンダル。
フワッと香るミントが強いシトラス系のデオドラントウォーターの匂いが、女の子のそれとは違って、急に抱き締められてる実感が湧いてきて恥ずかしくなったのを覚えてる。
「ドキドキしてんのは俺に? それとも花火か」
「知りません」
「可愛いな、華」
クスッと笑う気配にカッと顔が熱くなる。
「また、バカにして」
「してないよ」
「してるし」
「華、ちょっと上向いて」
「はい?」
振り返るように顔を上げると、そのまま私を見下ろしてた彼と私の唇が重なった。
次々と打ち上げられる花火が、スローモーションみたいに光って頭上を照らす。
驚きで目を閉じることすら出来ない私と違って、目を閉じた彼の、思ったよりも長くて濃いまつ毛がよく見える。
どれくらいの時間だっただろう。
本当はほんの一瞬だったんだろうけど、私にとっては永遠にも近いほど長く感じた不思議な時間。
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