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プロローグ
ドンッと大きな音を立てて、夜空に煌めく色鮮やかな光の花が咲いていく。
「華、なんで浴衣着てこなかった」
混雑した人混みから守るように背後から抱き締められて、私の頭の上に顎を乗せたまま、揶揄うようになんでなのかと繰り返す質問が、すぐにまた花火の音に掻き消される。
「急に誘われたんだから、無理ですよ」
可愛げのないハーフパンツとTシャツ姿の私は、照れ隠しもあって彼の顔を見ないまま、指先で爪を弾いて出来るだけ意識しないように努めるのに必死だ。
彼との出会いは高校で、体育祭の実行委員を押し付けられたことが切っ掛けだった。
男子ばかりで右も左も分からない私は、色んな意味で有名だった彼、体育祭の実行委員長にちょくちょく絡まれるようになって、彼は辛口のミントタブレットで私を手懐けた。
私が通ってた伊蘇山工業高校は、ヤンキーの溜まり場。地元じゃ問題児の寄せ集めと呼ばれてる。
委員長も例外ではなく、シルバーアッシュの短い髪をツンツンに立てて、夏でも冬でも白いTシャツの袖を肩まで捲り、ツナギの作業着は腰元で結んで、時折頭にタオルを巻いてたりする。
面倒見が良くて親分肌。だけど独特の空気は簡単には人を寄せ付けない、一匹狼みたいな面もある不思議な人。
一九〇センチ近くある筋肉質な体躯、イケメンではなく、親世代がハンサムだとか男前と口を揃えるような、彫りが深くてくっきりした凛々しい顔立ちに、たくさん開けられたピアス。
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