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 少女の冷たい手を握り、共に歩く。さっきまでべそをかいていた少女は今はご機嫌に歌を唄っている。  その歌が一段落ついた所で声をかける。 「ねぇ、君のお家はどの辺りなの?」 「あっちー!」  少女は楽しげに指をさすが、その先にあるのは山だ。歩いて行く程に人家も段々と少なくなってきていたので不安になるが、少女の歌声を聞いているとそれも薄れていく。  歩くこと数十分。辿り着いたのは山の直ぐ(ふもと)にある大きな日本屋敷だった。 「ここがおうち!」  立派な門構えに萎縮してしまう。この子はお嬢様だったのか、なんて考えていると少女が手を引っ張る。 「おにいちゃん、おれいがしたいからおうちのなかへはいって!」 「え? お礼なんていいよ、お兄ちゃんはこれで帰るから」  この屋敷の中へ入るのは分不相応な気がして躊躇われる。しかし少女はぷぅと頰を膨らませる。 「だめ! ちゃんとおまねきしないとおこられちゃうの!」  少女は俺の後ろに回ると、背中をぐいぐいと押してくる。  そんなか弱い力、振り解くことも簡単だったが心配してるだろう親御さんに経緯を説明することも必要かもしれないと考えてそのまま足を進めた。  門を跨いだその時、ぞくりと悪寒がして一瞬気持ち悪くなり足を止めてしまう。 「……おにいちゃん?」 「あ、大丈夫だよ。行こうか」  心配そうな少女の声に強がりで返し、屋敷の敷地内へと足を進めた。
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