ただいまといえる世界

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 そこには柿沼、谷口、北海の3人が既にいて、各々ストレッチをしていた。山田は3人に挨拶をするとチラリと街位を見る。急に連れてこられてわけがわからない山田はおとなしく相手の出方を待つしかなかった。  そんな山田の視線に気づいた街位はニヤリと笑うと「おまえら、聞けよー」と話を始める。それは山田にとっては予想外すぎるとんでもないことだった。 「今から、山に踊ってもらう」 「え?」  全く予期せぬことに山田が小さく声を漏らすが、それは柿沼たちの賑やかな声にかき消された。 「おおー!山のダンス久々!」 「鈍ってねぇだろうな」 「山のダンス楽しみー」  3人はワクワクして、山田の準備を待っていた。山田は堪らず街位に顔を向ける。しかし、拒否など受け付けないという雰囲気で顎で早くしろと示された。  山田は困った。それはもう困り果てた。なにせダンスなんて久々。そんな自分が彼らのように踊ることなど到底できるわけがない。  それでも残酷なことに音は鳴り出す。山田は仕方なしに4人の前で踊ることになった。  最初はぎこちない。それもそのはずブランクがあるし、じっと見られるし、人前で踊るという恥ずかしさもある。それら全てが緊張感を増して動きを鈍くする。チラリと視界に入った4人の顔つきは至って真剣で、山田は更に体が固くなった。 「山ー!リラックス、リラックス!」 「ちゃんと音聴けば大丈夫だよー」  柿沼や北海が声をかけるが、山田は それどころではない。 「リズムがなってねぇ!雑に踊るな!」  谷口に注意されても、今の山田には届かない。  しかしそんな状態の中、街位だけは何も言わず、静かに山田を見据えていた。その顔にああ、もうだめだと泣きたい気分で山田は眉根を寄せる。それでも、やらなければと思っていると……不意に音が消えた。 「もういい」
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