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*プロローグ
カッコ良くて頭が良くてやさしいところもある二歳上の兄ちゃんを見ていると、僕はいつもサイダーをひと息に飲み干したような複雑な気持ちになるんだ。
それは兄ちゃんが幼馴染の彼といて笑い合っているのを見ると余計に強くなった。
だからなのかな、ふたりがそうなんだなって気付いたの。いつの間にか、無意識の内に気付いていた気がする。
ふたりが――僕の兄・賢吾と兄ちゃんと同い年の幼馴染の聡太こと、聡ちゃんが、お互いを掛け替えなく……いや、もっとはっきり言った方がいいだろうか、ふたりは互いを愛しいと想い合っているって。
別に改まって当人たちそれぞれに宣言されたわけでもないのに気付いてしまった僕は、同時に自分の中にある、叶えてはいけない想いにも気づいたんだ。
(――ああ、僕、兄ちゃんが好きなんだ……)
自分をすり抜けていく甘い恋の感情の感触は、ひどく甘くて眩暈がする。まるで開けたての冷えたサイダーをカラカラに渇いた喉にひと息に流し込んだように。
たぶんだけれど、本人たちが気付くよりも早く、僕は兄ちゃんが聡ちゃんを、聡ちゃんが兄ちゃんを愛しいと思っていることに気付いたんじゃないかと思う。伊達に何年もふたりに引っ付いて回っていないからね。
「ねえ兄ちゃん、なんで聡ちゃんなの? 僕はもっとそばにいるのに」
気付いてしまってからずっと聞きたいその言葉が喉の奥でぐるぐるして、吐き出せないまま空回りしている。
僕も聡ちゃんみたいに、カッコ良くてやさしいヒーローみたいな兄ちゃんの傍に当たり前にいて、大切にされたい。そんな気持ちばかりが膨らんでいくのが止められなくて苦しい。
でもそういうのって母さんにも父さんにも誰にも言っちゃいけない気がする。
だから僕だけが知る秘密を、今日も僕は抱えたままふたりの後をついて回るんだ。
誰にも僕らの気持ちを汚させないために。
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