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前編
「ようこそ、異世界からの客人よ。そなたは今から、勇者【ぎょべべべ】となって、復活した魔王を倒す旅にでるのだ!」
「うわー」
まさかの異世界転移かと思いきや、特級レベルで有名な平成のクソゲー【勇者ぎょべべべ】の世界だった。
高難易度ではないが、開発者のひねくれた精神が遺憾なく発揮されているこのRPGは、まともにプレイしたらクリアーできない、笑えない部類のクソゲーであり、わざとバグ技を使わないと、ラスボスを倒せないのを筆頭に、いろいろひねくれすぎていて、興味本位で手を出したゲーム実況者たちを次々と発狂させた、90年代の呪物である。
ネットにあがっている実況動画は、ほとんどグダグダ進行をカットしているし、過去、なんとか手に入れた攻略本を片手に、ライブ配信で全編通してやろうとした猛者もいたが、途端につまらなくなって、視聴者が一気に離脱する悲しい事件があった。ちなみにオレも離脱した。
このゲームをプレイせず、実況動画を視聴する輩の目的は、ゲームのクソさと発狂する実況者が見たいのであって、快適なサクサクプレイ動画なんて求めていないのである。
つまり、オレの知識は穴だらけ。視聴した限りの、切り抜きまとめ動画の範囲でしか、このゲームの知識が役に立たないのだ。
……アレ? オレ、詰んだ。
装備という名のコスプレ状態で、王の間に強制連行されたオレは、実況動画で何度も見たであろうスーファミドット絵の場面が、リアルに再現されている状況に、ゆるい地獄と絶望を味わっている。
「では、旅立ちの前に、預言の書をそなたに授けよう」
「へ?」
ちょっと待て。
動画だと、王様から、そんなくだりはなかったぞ。
「預言の書ですか?」
「さよう。今から約100年前に預言者が現れて、この預言の書を勇者に渡すようにと、我らが先祖に託したものだ」
なんだろう、なんかひっかかる。
「それで預言者は?」
「預言の書を先祖に渡すと同時に、勇者召喚の魔法陣が再び発動して、元の世界に帰ったとされている」
まさかの、オレと同じ異世界人かよ。
「あのー、魔王復活まで100年あったわけですよね。その間、預言の書を解読しようとは思わなかったんっスか?」
はぁ? 王様に対して、態度がぞんざい? 不敬罪?
知らんがな。
ぎょべべべの世界に放り込まれて、正気を保ちつつビジネスマナーを守る強さなんてオレにはない。
「お恥ずかしい話だが、この100年、預言の書を解読しようとは試みたものの、5種類の言語が組み合わさっている特殊な構造で、我々の知識では解読ができなかった。記載されている図解が、どこかのダンジョンだとなんとか解読できたものの……保存魔法をかけて、勇者であるそなたに渡すのが、今の我々の精一杯の誠意だと思って欲しい」
「あー……その、こっちこそ、すいません。むちゃ言いました」
と言いつつ、渡された預言書に視線を落とす。
いや、そんなまさか、偶然にしては話ができすぎている。
これは夢か?
それとも運命か?
預言の書の表紙にはこう書かれていた。
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