後編

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後編

 ひらがな・カタカナ・漢字・ローマ字・和製英語……確かに、日本語は5種類の言語で成り立っている。  解読を依頼された専門家は、さぞ頭を抱えたことだろう。  それは、置いといて。 「うわあああああ、預言者さん、ありがとううううううううう!!! すっごい、助かるうううううううううううううぅ!!!」  もはや絶版してる、マニア垂涎(すいぜん)のレア中のレアSSR攻略本。  まさかこんな所で、お目にかかる日がこようとは!  元の世界に持って帰ることができたら、絶対、オクに売ろう。 「どうやら、読めるみたいだな。喜んでいただいてなによりだ」 「……そういえば、当時はどうして勇者でもない存在を、預言者だと断定できたん?」  あくまでも、()めた口調はゆずらない。 「あぁ、なんでも当時は、魔法陣の誤作動で来てしまった招かれざる客だと判断され、あやうく預言者を処刑してしまうところだったらしい」 「は? なんで?」 「言い伝えによれば、魔王が復活すると神より授かりし魔法陣が発動し、世界を救う存在が現れる。しかし、魔王が復活する前に魔法陣が作動することは不吉な予兆だとされ、処刑もやむなしだと、その当時は信じられていた」 「はぁっ」  こえーな。  なんのカルトだよ。  言い伝えってことは、元々は口伝(くでん)で、まちがった内容で伝わった可能性がかなり高いな。なんて、不毛な伝言ゲームだ。 「だが、現れた預言者は(おのれ)(ふる)い立たせ『この(しょ)は予言の書であり、自分は預言者で、この預言の書を勇者に渡せ』と、疑心暗鬼により殺気立(さっきだ)つ我らが先祖を粘り強く説得し、その熱意に先祖たちも胸を打たれて、晴れて予言の書が、我らの元へ(もたら)されたと記録に(のこ)っている」  そりゃあ、得体の知れない奴から、得体の知れない本を渡されるなんて軽いホラーだよな。召喚された預言者の方も自分の命がかかっているし。 「なるほど、だいたい分かってきた」  つまり預言者は、オレと同じ異世界人で日本人だった。  そして限られた情報から、勇者ぎょべべべの世界だと把握し、ちょうど持っていた攻略本を差し出して、預言者と預言の書だと(かた)り、誤作動を起こした魔法陣が再び発動するまでの時間を稼いだ。  再度(さいど)、魔法陣が発動するのかは命がけのギャンブルだが、そのギャンブルに自称・預言者は勝ったのだ。  世界を救う存在が現れる。 ――そんな、あいまいな言い伝えを自分なりに解釈して。  って、それどころではない。 「わかりました。魔王を倒したら帰れますよね!!!」  エンディングでも、主人公は自分の世界に帰った。  帰った後は、どうなったかわからんが。 「もちろんだ」 「じゃ、いってきまーすうううううううううううううううううううっ!!!」 「あ、いや、そんなに慌てて……」  王様がドン引きしているが構わない。  オレの世界だと今年で【勇者ぎょべべべ・生誕30周年記念祭】が開催されているのだ。  クソゲー愛好家(マエストロ)たちの悪ノリにゴリ押しされて、公式も動いた形だから、ある意味、お祭り状態が続いたため、オレみたいなゆるいオタクでも勇者ぎょべべべは目に止まり、今回の異世界転移に関しても、早めに状況を飲み込むことができたのだが、重要なのはそこではない。  異世界では、預言者が現れて約100年。  現実世界だとゲーム発売30周年。  つまり、オレが今いるぎょべべべの世界だと、3倍よりちょっと早いぐらいの時が流れている。  一刻(いっこく)も早くクリアーしないと、浦島太郎状態だ。  Real Time Attack(リアルタイムアタック)――略してRTAの始まりだ!!!  って、なんだか、打ち切りマンガの終わりっぽくて笑えてくる。  いやいや、笑えない。  オレ、便宜上(べんぎじょう)だけど、ぎょべべべって名乗らないといけないのかな? 【了】 053540f0-03b0-4bf1-8c4f-970ab399e126
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