1人が本棚に入れています
本棚に追加
収集家
僕の父が亡くなった。あっけない最期だった。
余命半年といわれ、一か月もしないで「ちょっくら逝ってくるわ」とへらへら笑いながらあの世に旅立ってしまった。いつも飄々とした父らしい人生の終着点だった。
遺影も「いえーい」なんて言いながら撮った写真を使い、生前の父が望んだように、暗くならないような葬儀にした。
「これからどうしよっかねえ……あのゴミの山は片づけるの大変よ。アンタも手伝うんよ」
「わかってるよ」
母の言うゴミの山とは、父の収集したものだ。父はとにかく収集癖がひどかった。ゴミの山とはひどい言われようだが、父に同情できない。「想い出を取っておくためだ」と言っていたが、本当にゴミなのだ。
キャンディーの食べたあとの棒だったり、酒瓶の蓋だったり。一応、汚れを拭き取った状態で保管しているが、人のものを処分することとゴミに触れるという二重の意味で、掃除はあまり気分の良いものじゃない。
母が父の机を片づけている間、僕は魔の押し入れに手を伸ばした。どうか得体の知れない物質Xが出てきませんように、とそれはもう心を込めて祈った。
「……………………」
口を開けたまま、僕はしばらく立ち尽くした。指一本動かせなかった。
押し入れには目いっぱいつまったゴミだらけで、よくぞこんなに集めたなと父の顔が浮かぶ。
見覚えのあるビール瓶を手に取った。廃盤になって今はもう手に入らない瓶であり、初めての給料日に購入した記憶がある。
ビール瓶の奥にあったのは、丸い石だ。まだ僕が幼稚園児だった頃、石を収集する癖があって、確か一つ父にあげた。子供の頃は大きく感じられたのに、今は片手で包み込める。
一緒に飲んだあまり美味しくなかったジュースの空き缶、僕が土産で買ってきた箱にくるまれていた包装紙。唯一まともなものは、四つ葉のクローバーの栞。
畳を踏みしめ、力を入れた。どこかに集中していないと、こらえきれないものが出てしまいそうだった。
「ほら、燃えるものと燃えないものを分別してよ」
声が震えないよう細心の注意を払いながら、僕は口を開いた。
「ここにあるもの、いくつかもらっていいかな」
最初のコメントを投稿しよう!