収集家

1/1
前へ
/1ページ
次へ

収集家

 僕の父が亡くなった。あっけない最期だった。  余命半年といわれ、一か月もしないで「ちょっくら逝ってくるわ」とへらへら笑いながらあの世に旅立ってしまった。いつも飄々とした父らしい人生の終着点だった。  遺影も「いえーい」なんて言いながら撮った写真を使い、生前の父が望んだように、暗くならないような葬儀にした。 「これからどうしよっかねえ……あのゴミの山は片づけるの大変よ。アンタも手伝うんよ」 「わかってるよ」  母の言うゴミの山とは、父の収集したものだ。父はとにかく収集癖がひどかった。ゴミの山とはひどい言われようだが、父に同情できない。「想い出を取っておくためだ」と言っていたが、本当にゴミなのだ。  キャンディーの食べたあとの棒だったり、酒瓶の蓋だったり。一応、汚れを拭き取った状態で保管しているが、人のものを処分することとゴミに触れるという二重の意味で、掃除はあまり気分の良いものじゃない。  母が父の机を片づけている間、僕は魔の押し入れに手を伸ばした。どうか得体の知れない物質Xが出てきませんように、とそれはもう心を込めて祈った。 「……………………」  口を開けたまま、僕はしばらく立ち尽くした。指一本動かせなかった。  押し入れには目いっぱいつまったゴミだらけで、よくぞこんなに集めたなと父の顔が浮かぶ。  見覚えのあるビール瓶を手に取った。廃盤になって今はもう手に入らない瓶であり、初めての給料日に購入した記憶がある。  ビール瓶の奥にあったのは、丸い石だ。まだ僕が幼稚園児だった頃、石を収集する癖があって、確か一つ父にあげた。子供の頃は大きく感じられたのに、今は片手で包み込める。  一緒に飲んだあまり美味しくなかったジュースの空き缶、僕が土産で買ってきた箱にくるまれていた包装紙。唯一まともなものは、四つ葉のクローバーの栞。  畳を踏みしめ、力を入れた。どこかに集中していないと、こらえきれないものが出てしまいそうだった。 「ほら、燃えるものと燃えないものを分別してよ」  声が震えないよう細心の注意を払いながら、僕は口を開いた。 「ここにあるもの、いくつかもらっていいかな」
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加