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あの事故から一週間。
念の為入院となったが体に異常はなく翌日には退院し、つまらねー日常に戻った。
そんな中またSNSを開くがあれから俺通信はパタリとなくなり、一体何だったのか今でも分からない。
神とか親父の霊とか信じてねーが、ガラにもなく考えてしまうことがある。
まずはツレらを面白がらせて、毎日十七時三十一分にSNSを見させるようにする為に、事故の一週間前から俺通信を投稿し始めたのか? とか。
なーんて、そんなバカみてーなことを妄想してしまう自分が居て、笑っちまう。
「じゃあな」
「気を付けて帰れよ」
ツレ二人は変わらずの態度で、恩着せがましいことなど一切言ってこない。そんなこいつらに。
「……ありがとうな」
気付けば、そう言葉に出している自分が居た。
「は?」
「気持ち悪りー」
ニヤニヤと笑うこいつらに、「うるせー」と返す。
くだらねーけど死んでたら、こんなくだらねーやり取りも出来なかったんだよな。
十七時三十一分。
今日もSNSを見るが新たな投稿はなく、アプリをそっと閉じる。
キィ。キィ。
窓より聞こえてくる音に、母親が帰って来た音だと分かる。
あの事故後、やはり無理にでもチャリを修理に出していれば良かったと泣いていた。
あの人と喧嘩した理由はチャリのブレーキの調子が悪いと軽く呟いたら、修理に出すだの、しばらく車で送迎すると言ってきて、俺がウゼーと跳ね除けたからだ。
……アンタの負担、これ以上増やしてどうするんだよ?
まあ、それを聞かなかったせいで死にかけたんだけどな。
だからよ、あの事故はアンタのせいじゃねーし。毎日ブレーキ確認なんて、過保護過ぎないか?
チャリ、学生カバン、学生服のクリーニング、スマホの買い替えさせて、大赤字だろ?
だから、もう泣かないでくれ。
スマホの写真を眺めると、そこにはあの日のSNSに投稿された内容。
『ただ今、海で溺れている。母ちゃん残して死ねない』
流石に内容がヤバい為、SNS上では削除したが実はこっそりスクショしていた。
死を悟ったあの時、真っ先に浮かんだのは母ちゃんで。咄嗟に思ったのも……。
ガチャ。
俺の部屋を開けチラッと覗いたかと思えば、声を掛けずに戻っていく背中はやはり小さく。あの日連絡を受け泣きながら走って来た母親に抱きしめられた時、この人はこんなに小さな体をしていたのだとようやく気付いた。
スッと立ち上がった俺は、リビングに向かう。
「……おかえり、母ちゃん。今日の晩飯なに?」
顔を見ず、ぶっきらぼうにそう聞く。
「心配してくれてありがとう」は、まだまだ言えず、これが俺の精一杯。
「ただいま、直樹」
母ちゃんを見下ろすと、そこにはあったのは久しぶりに見る笑顔だった。
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