2.恐ろしい世界

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2.恐ろしい世界

「そうだね、何か忘れているみたいだから君にはじっくり教えてあげよう」 「お前は……」 「お前よばわりされる筋合いは無いね。君が駄目ならば、次の彼女に嫁すのは俺だ。マウリッツ・サロイネン」 「サロイネン? まさか確かお前、妹が居なかったか?」 「そうだね、妹は居るよ。ウルスラっていうのがね。彼女はうち、貧乏男爵のサロイネンの家を継いだし、跡継ぎを作るために子種を求めてそれ相応の場所に行って何人か産んだんだが、残念ながら、そこで病気をもらってな。それ以来病院暮らしさ。そう長くは保たない。家督はまだ子供の彼女の娘に渡り、後見として、今のところ僕の兄がしている状態だ。兄は残念ながら、君同様、どうやら種無しということで婚家から返されたからね」  種無し。  そうか。  ここで俺は、そんな理由で放逐されそうになっているのか。  しかし何だ?   百年前? そんなこと知らない。  皆が皆、俺を騙すために芝居をしているのか? 「そう言えば君とも一時期付き合いがあった様だね。その時もそう言えば子供はできなかった様だな。それであれは、君を見限ったんじゃなかったかな。嗚呼それを先にこのエディットに言っておけば、面倒な問題は起きなかったものを!」 「……そ、そうなのか…… じゃあ、後の二人、お前等は何なんだ?」 「ああ、自分はマックス。まあ姓はどうでもいい。こっちはニコライ。まあ、この有能な次席のマウリッツが仕事で居ない時に、彼女の相手をするための役さ」 「そうそう。子供ができる時期を逃してはいけない。彼女の体調や気分を悪くしてもいけない」 「どうやら調べによると、君は仕事と称して、彼女の気分を著しく害してきた様だね。そして彼女以外の女にも手を出してきたとか? 一度嫁してきた身が何をやっている? 何処かで病気をもらって彼女の身にそれを伝染したならば、君はどんな責任をとれるというのだ?」  マウリッツは俺にまくし立てる。 「な、何だよ、じゃあお前等は、三人も居ながら、ひたすらエディット一人のために何でもするというのか?」 「当然でしょう」  ニコライという男が涼しげな声で言う。  視線は俺を明らかに見下していた。 「今の世の中、男は有り余って居ます。それこそ戦争でもして男だけ減らすくらいでないと、命を生み育む女性に負担がかかるというもの」 「まあさすがに今の世の中、そんなことを始めたら、各国それぞれ女性が居るところを攻撃するだろうから、ということで均衡が取れているし」 「そもそも各国の女王女帝陛下達は誰もも戦争なぞ起こしはしませんよ。血を流す闘争心など、男特有の悪癖だと、過去の歴史が物語ってますからね」 「今はだから実に平和なものですよ」  俺は次々に口々にされる言葉に頭がどうかなりそうだった。 「離婚は…… 決定なんだな」 「ええ、さすがに一年貴方の自由を奪ったということで、こちらも鬼ではありませんから、貴方の住居と、多少の金を用意しました。そちらへ移っていただきます。ただこの事実はすぐに世間に広がるでしょうね」 「貴方は種なし男として、そういう目で見られて行くということだ」  マウリッツは言い放つ。 「別に貴方がこの先誰かと再婚することも可能だけど、誰が貴方とそうするかしら? それとも若い頃に愛したこの彼の妹の世話をする?」  俺は震える手で、それでもできるだけ急いでサインをすると、笑顔の彼等の間に居られなくて、屋敷から飛び出そうとする。 「ああちょっとお待ちを」  弁護士が俺にある程度の厚みの封筒を差し出す。 「その辺でのたれ死んだら気分が悪いから、というエディット様のご厚意です。きちんと受け取る様に」  俺は更にいたたまれなくなって、封筒をひったくる様にして受け取ると、その場から駆け出した。  下りの階段に、つい足を踏み外し、足を少しくじいた気もするが、気のせいだろう。  ああもうこんな家に居たくない。猛ダッシュだ。
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