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生きた屍
賀集丸は呆然とした。悪の意思を思うもそれが実行出来ぬ身体になったことに……。
怒りがこみ上げて来るが額の『不瞋恚』の文字が光り怒りを鎮めていく。
「怒ることも出来ぬのか……」
賀集丸は息を吐いた。
「こんな身体になら生きる意味がない。悪を貪れぬなら意味がないのだ……」
賀集丸は頭を垂れ、自らの喉元に刃を突き立てようとした。しかし『不殺生』の文字が光り輝き刃を撥ね飛ばした。賀集丸の愛刀は地面に突き刺さる。
「殺生をするなっ……か……自害さえ許されぬか……」
賀集丸は生気のない笑みを浮かべた。身体に刻まれた文字は賀集丸を縛りつけ悪という自由を奪った。
「俺は……俺は……」
がくりと膝を就き恨めしく天を睨む。悪行の限りを貪り尽くし快楽を得ていた男は、この時からその悪の意思を持ったまま悪の素行を封印され、生きた屍のごとく堕ちた……。悪を貫ぬき賀集丸と共に戦った愛刀は、賀集丸の墓標のように地に突き刺さり輝きを失っていた。
〈完〉
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