悪の王へ

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悪の王へ

「ほう。それならばお主、この世界にある十の国に散らばる悪の教えなる巻物を集めてみぬか?」 「悪の教えなる巻物?」  さらに不気味な笑みを浮かべ男は続けた。 「知らぬか……こんな言い伝えがあってな……」  普段なら気の短い賀州丸は戯れ言と男に切りかかっていたであろう。しかし、不思議と悪の教えなる巻物に興味を持ち聞き入った。  男が話した内容は大昔、十の巻物を持った一人の最強の悪の王がいたという。しかし、一匹の鬼が王からひとつの巻物を盗んだ。おかげで王は弱体し、それを機に残り九つの巻物もそれぞれ九匹の鬼に奪われてしまった。鬼たちはこの地にある十の国にそれぞれ分かれ縄張りとして住み着いているとのことだった。 「本来なら人なる者が鬼に勝つことは出来ぬだろうが、お主ならもしかしてと思ってな」 「その十の巻物を集めれば王になれるのか?」  賀州丸は興味のある目で男を見た。 「もちろんじゃ。ただしその鬼どもから巻物を奪えればの話じゃがな……」 「この世に俺に敵うものはいない。それは鬼でもだ……」  賀州丸は豪語し高笑いをした。 「では案内しようか? わしも目指したが到底わしでは敵わなくてな。その際、足もこの通り負傷して今ではこの愛刀も杖がわり……」  男は杖がわりの刀を掲げた。すでに鞘はボロボロで奇妙な護符も文字が色あせ何が書かれているのか読めない。 「まぁ、良き暇潰しになるだろう。で、お前の名は?」  賀州丸は聞いた。 「わしは囨頭憑雲(へんずつくも)と申す。では早速、お主の力を鬼で試してみるか?」 「暇潰しになればいいがな……」  変わらず強気の賀州丸。 「では隣の国に巣くう偸盗(ちゅうとう)という鬼の元に案内しよう」
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