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オサダの小説は、本当に面白くて美しかった。
本当にこんな世界が存在してるんじゃないかと思うほどに細かくて深い世界設定は勿論、魅力的なヒーロー・ヒロイン、そしてそんな二人の気持ちの揺れがこちらにも伝わり、何度も泣きそうになった。
恋愛だけでなく、二人を取り巻く陰謀なんかもあって、ドキドキハラハラ、飽きさせない展開が続いて素晴らしい。
……と、私はオサダに感想を述べた。
放課後の校舎裏の小さなベンチに座り、ノートを開きながら細かく感想を述べたのだが、オサダはずっと頭を抱えていた。
「え、俺やめろって言ったよな?何で付箋まで貼って感想聞かせてくれちゃってんの?羞恥プレイなの?」
「あ、聞くの恥ずかしいならレポートにまとめてくればよかったね。ファンレターみたいにさ」
「それはやめろマジで」
オサダは心底嫌そうな顔をした。
私はそんなオサダをあえて無視しながら
「続き早く書いてね」
とリクエストしながらノートを返した。
オサダは諦めたように頷いていた。
「オサダはさ、小説家になりたいとかあるの?」
ふと、私はたずねた。するとオサダは、急に真顔になって、きっぱりと答えた。
「なりたくない」
「どうして」
「逆にどうしてならなきゃいけないんだよ」
「だって、こんなに面白い小説書けるのに。もっと大勢に見てもらいたいとか思わないの?」
勿体ない、と私は訴えた。
すると、オサダはジッと私の顔を見つめて、そして小さく首を振った。
「俺にとっては、人に公開するほうが勿体ないんだ。これは俺だけの物語だ。人に見せたくない。俺だけが楽しむ、俺だけの世界なんだよ」
「オサダだけの?」
「まあ、お前がズカズカ入り込んじまったけどな」
「ごめん」
「いいよもう。今更」
オサダはため息をついた。
私はその話を聞いても、やっぱり勿体ないな、という気持ちが拭えなかった。
「オサダの中にある、こんなにキレイな世界、他の人にも見せてやりたいな」
「じゃあ、お前も書いてみればいいんじゃねえの?」
「え?」
思いがけない提案に、私はキョトンとした。
「何びっくりしてんだよ。俺ですら書けるんだから誰にでも書けるわ。そうだ、決まりだ!お前も書けよ。それで俺に見せろ。俺もお前の小説見て細かく感想言ってやるよ。お前もこの羞恥心味わいやがれ」
そう言って、オサダは楽しそうに笑った。
オサダもそんな顔で笑うんだな、と私はその時思った。
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