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シャッター音、フラッシュの光、マイク。
「新見サナ様、第50回日本幻想小説大賞、二十歳での最年少受賞、おめでとうございます。ご挨拶をお願いします。」
司会者の人の声に、私は優雅な顔付きで笑ってみせた。
「ありがとうございます。こんな歴史ある賞を頂いて大変恐縮です。これからも精一杯頑張っていこうと思います」
テンプレ通りの挨拶をとりあえず返してみる。
司会者の人は私にマイクを向けてつづけた。
「美しい文章と、心理描写、作り込まれた世界観が審査員の心を掴んだと聞いております。そんな新見さんは、感銘を受けて影響された小説などはあるのでしょうか。ぜひ、新見さんの運命の一冊、を教えていただけないでしょうか」
この質問が来ることは、事前に編集者の人から聞いていた。なので、私は脳内のカンペ通りに、淀みなく答えてみせる。
「海外ファンタジーが好きです。有名どころで言えばミヒャエル・エンデ、ダイアナ・ウィン・ジョーンズなどの本が私の作風を作り上げたと思います。しいて、運命の一冊と言えば……」
そこで言葉が止める。
運命の一冊……。その言葉を口にした途端、アイツの言葉が蘇ってきた。
『お前はカッコつけだからな。何か聞かれたら多分外国のモノを言うだろうな』
アイツがそう言っていたのはいつだっただろうか。
初めて秘密を知ったあの日だったか、笑い合ったあの日だったか、それとも初めて人の股間を蹴飛ばしたあの日だったか……。
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