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「…私が、羨ましい?…」
私は、繰り返した…
そして、考えた…
目の前の夫を見て、考えた…
夫の葉尊は、長身で、容姿端麗…
頭もよく、大金持ちの、御曹司…
にもかかわらず、私が、羨ましいと言う…
冗談ではなく、心の底から、言う…
これは、謎…
この矢田には、解けぬ謎だった…
なぜなら、この矢田は、六頭身…
美人でも、なんでもない…
巨乳で、童顔の159㎝の35歳の女に過ぎんからだ…
しかも、これまで、一度も言ったことがないが、かつて、
「…動くぬいぐるみ…」
と、言われたことがある(涙)…
それは、私が、六頭身で、太っているから…
いわゆるデブではないが、巨乳だから、だ…
ハッキリ言って、日本人、いや、アジア人で、太ってなくて、胸が、大きな女性は、いない…
いわゆるスレンダーで、胸が、大きな女は、いない…
いるとすれば、それは、整形…
豊胸手術をしたから、胸が、大きいのだ…
しかしながら、この矢田トモコ…
豊胸手術は、しなくても、胸が大きかった…
つまり、生まれつき、胸が大きかったわけだ…
それゆえ、少しばかり、太っている…
いわゆる、ぽっちゃり体形だ…
だから、胸が大きいのだ…
だから、
「…まるで、生きている、ぬいぐるみみたい…」
と、言われたのだ…
そして、そんな、この矢田を、頭脳明晰、容姿端麗で、大金持ちのお坊ちゃんが、羨ましいという…
冗談ではなく、心の底から、羨ましいという…
だから、信じられん…
信じられんのだ(笑)…
が、
その一方で、世の中、そんなものかも、しれんとも、思った…
よくあるのが、やはり、ルックス…
例えば、いかに、金持ちの家に生まれようが、ルックスの良くない、男女は、多い…
すると、金持ちの家に生まれなくても、いいから、
「…ルックスが、良く生まれたかった…」
とか、
「…美人に生まれたかった…」
とか、
「…イケメンに生まれたかった…」
と、いう人間が、少なからず、いるだろう…
ないものねだりと、言ってしまえば、それまでだが、自分にないものを、欲しがる人間は、多い…
誰もが、身近なところでは、背の高い男が、小柄な女と、結婚した実例…
背の高い男は、自分が、背が高いから、小柄な女を、可愛いと、思い、小柄な女は、自分の背が低いから、背の高い男に憧れる…
つまり、互いに自分にないものに、魅力を感じる…
そういうことだ(笑)…
真逆に、背の低い男が、背の高い女に憧れるのも、同じ…
背の低い男は、自分が、背が低いから、背の高い女に憧れるし、背の高い女は、背の高いことに、コンプレックスを抱いていることが、多いから、自分より、背が低い男を受け入れる…
そういうことだ…
これも、また、同じ…
同じだ…
ただ、皮肉を言うわけでは、決してないが、背の高い女は、可愛くはない…
なぜなら、当たり前だが、背の高い女は、カラダが大きいから、一つ一つのパーツが、大きい…
だから、身近に、見ると、手の大きさ、一つとっても、デカい(笑)…
だから、可愛くは、ない…
可愛い=小さいからだ…
この矢田は、身長、159㎝だから、165㎝以上の女を、直近に見ると、正直、デカいと、感じる…
とりわけ、その女が、美人だったり、スタイルが、良かったりすると、つい、男の気持ちになる…
なぜなら、男が、憧れる気持ちがよくわかるからだ…
ただし、やはり、近くで、見ると、可愛くは、ない…
今も言ったように、可愛い=小さいからだ…
だから、大きい=可愛くないからだ…
たしかに、少し離れた場所から、見ると、背が高く、スタイルの良い女は、キレイだったり、カッコイイと、思ったり、するが、直近で見ると、
…デカい!…
の一言だ…
これが、女が、水着を、着ていても、同じ…
少し離れた場所から、見れば、胸も大きく、お尻も大きく、スタイル抜群…
だから、
…カッコイイ!…
とか、
…セクシー…
とか、言えるが、直近で見れば、
…デカい!…
の一言…
以前、エリエール王子こと、井川意高氏が、いみじくも、語ったが、若い頃に、身長175㎝の東欧美女と、付き合かったが、ベッドの上では、
…重い!…
の一言だったという(笑)…
自分も身長が、175㎝で、女と同身長だったが、やはり、ベッドの上では、相手が、重かったそうだ…
つまり、現実と、理想の違いというと、おおげさだが、やはり、現実は、そんなものだろう…
私は、思った…
思ったのだ…
そして、そんなことを、考えていると、葉尊が、
「…父も勝負に出たな…」
と、呟いた…
私は、思わず、耳を疑った…
…勝負?…
…勝負って、なんだ?
考えた…
考えたのだ…
しかしながら、当たり前だが、わからんかった…
だから、素直に、目の前の葉尊に、
「…勝負って、なんだ?…」
と、聞いた…
直球に聞いた…
「…リンの正体ですよ…」
「…リンの正体?…」
「…リンは、台湾で、おそらく、今、一番有名です…ですが、色々、噂の多い、人物でも、あります…」
「…噂の多い人物?…」
「…C国のスパイとも、政界や財界の枕とも、言われています…」
以前、葉問が、言ったことと、同じことを、言った…
「…でも、それが、かえって、リンの魅力になっている…」
「…なんだと? 魅力になっているだと?…どうしてだ?…」
「…男でも、女でも、謎があった方が、モテます…ずばり、ミステリアスの方が、モテます…」
「…なんだと?…」
「…女の裸を見れば。それが、わかります…」
「…どういう意味だ?…」
「…良く、一昔前は、グラビアで、水着を見せていたアイドルが、売れなくなって、ヌード写真集を出したでしょ?…」
「…それが、どうした?…」
「…実は、ヌード写真を出すと、話題になるのは、最初だけで、それを、きっかけに、さらに、売れなくなる事例が、多いんです…」
「…多い?…どうしてだ?…」
「…すべて、見せたからでしょう…」
「…どういうことだ?…」
「…水着を着ていれば、その水着の奥は、見えない…想像するしかない…」
葉尊が、笑う…
私の夫が笑う…
「…でも、脱いで、裸になってしまえば、それまで…読者は、すべてを、見たから、今さら、見たいものが、なにも、なくなる…」
「…」
「…リンもそれと、同じです…自分が、色々噂を立てられていることが、自分でも、よくわかっている…そして、それを、利用している…」
「…利用?…」
「…ホントのところは、どうなんですか?
と、知りたい男は、多い…それを、ネタにして、自分の人気に使っている…自分の人気をさらに、高めている…」
「…」
「…実に、したたかな女です…」
葉尊が、言った…
私の夫が言った…
正直、そんなことは、考えたことが、なかった…
私は、単純に、リンという女が、
…C国のスパイ…
とか、
…政界や財界の枕…
とか、評されることに、驚いていた…
ただ、驚いていたのだ…
しかしながら、今、葉尊が、言ったように、それを、自分の魅力にする…
そんな噂を逆手に取って、世間で、自分に注目を浴びさせる…
そんな発想は、なかった…
なかったのだ…
そして、同時に、思った…
アムンゼンのことだ…
あのアラブの至宝のことだ…
あのアラブの至宝は、リンに夢中…
あのアラブの至宝の博物館のような私邸に、リンを描いた絵を描いていた…
偶像崇拝を禁止する、イスラム教徒だから、直接、リンの写真を飾ることは、できない…
だから、壁に、絵を描いた…
誰が、見ても、一目で、わかるように、リンを彷彿させる絵を壁に描いた…
まるで、天女のように、描いた…
それを、一目見れば、誰もが、この家の主は、リンに夢中だと、気付くように、描いた…
リンのファンだと、わかるように、描いた…
描いたのだ…
が、
しかしながら、これは、真逆に、言えば、わかりやす過ぎる…
なにしろ、一目見れば、リンとわかる絵を描いているのだ…
誰が、見ても、台湾の人気チアガールとわかる絵を描いているのだ…
あのリンを知っている者が、見れば、誰でも、わかる絵を描いているのだ…
いわば、露骨過ぎるのだ…
だから、もしや…
これは、罠…
あのアムンゼンの仕掛けた罠かも、しれんと、気付いた…
なにしろ、あのアムンゼンは、食わせ者…
一筋縄では、いかん…
真逆に言えば、一筋縄で、いく人間が、素直に、自分の感情を、周囲に明かすわけがない…
ホントの自分の感情は、隠すものだからだ…
なにを考えているか、わからないように、周囲には、隠すものだからだ…
それが、誰の目にも、わかりやすいように、リンの絵を描く…
ということは、どうだ?
やはり、罠?…
あの絵は、周囲の目を欺く罠かもしれんと、気付いた…
気付いたのだ…
なにしろ、あのアムンゼンは、普通ではない…
普通の人間ではない…
ホントは、30歳にも、かかわらず、小人症だから、外見は、3歳にしか、見えん…
それを、逆手に取って、セレブの子弟の通う、日本の保育園に身を隠した…
自分が、3歳の幼児にしか、見えんことを利用したのだ…
しかしながら、30歳の大人が、3歳の保育園児に交じって、生活することは、できない…
頭が違い過ぎるからだ…
年齢が、違うから、人生経験が、違い過ぎるからだ…
だから、できない…
普通は、誰が、考えても、いっしょにいることに、耐えられない…
3歳と30歳の大人が、同じ立場で、いっしょにいることは、普通はできないからだ…
だが、
あのアムンゼンは、それに耐えた…
その一事を持っても、あのアムンゼンは、普通ではない…
普通の人間ではない…
常人なら、決して耐えられないことを、耐える…
それは、並大抵の精神力の持ち主でなければ、できないからだ…
そして、そんな精神力を持つ、あのアムンゼンが、素直に、自分が、リンのファンだから、自宅にリンの絵を描かせたと、言っても、それを、信じることはできん…
正直に言って、その説明は、眉唾物…
到底、信じることは、できん…
できんのだ…
私は、あらためて、あのアムンゼンに疑問を感じた…
正直、アムンゼンを疑った…
<続く>
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