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「……一緒なの?」
急に手の力が緩み、私は後退り咳き込んだ。目に浮かんだ涙を拭ってから顔を上げると、女が驚いた顔で私を見ていた。
「一緒なの? 貴女も捨てられたの?」
私は驚きながらも「やっぱり貴女も?」と返す。自分の予想が半ば当たった事と、似たような境遇なのかという驚き。私は互いに顔を見合わせていた。
「浮気?」
私が聞くと今度は彼女が「貴女も?」と聞き返してくる。私は頷く。それから、数日前に同棲していた彼氏が、二人のアパートの一室で別の女と浮気しているところに遭遇したのだと説明した。
「追い出されたの?」
気付けばお互いに、机越しに向き合って座っていた。私は「そうなんだよね。向こう名義だからしょうがないんだけど」と怒り混じりに返した。
「現場を目撃したうえに家を追われるなんて災難」
彼女が同情するような声で言った。たぶんどこを探しても、霊に同情されたのなんて私ぐらいなはずだ。
しばし、元彼の悪口を言った後に「貴女はどうなの?」と、私は彼女に水を向けた。
現世に残るぐらいなのだからよっぽど恨まれるような出来事があったに違いない。
「彼は必ず帰って来る。もう寂しい思いはさせないからって……それなのに、二度と帰ってこなかった」
彼女はぽつりと言った。だからあの時、彼女は約束を破ったと口にしたのだと私は合点がいった。
「あの日から、ずっーと私はここで待ち続けてる。それなのに彼は来ない」
徐々に彼女の目が吊り上がり、目の下の隈が濃さを増していくのが分かった。
「そういう人だって分かってた。口だけは上手いから。嘘もいっぱい吐かれたし、浮気も」
「ひどい。よく我慢してたね」
私は自分に重ね合わせて憤慨する。
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