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大学受験の勉強に行き詰まり見知らぬ街にやってきた。いわゆる逃避行だ。
その街でたまたま見つけた年季の入ったたたずまいをした古本屋を見つけた。『夢現DO』という古ぼけた看板が掛けられていた。「むげんどう」と読むのだろうか。英語表記なので「むげんドゥー」と読むのだろうか。そんなことを思いながら店内に入る。特にお目当ての本がある訳ではなく、なんとなく店内から呼ばれた気がしたのだ。
いつも行く大型チェーンの古本屋とは雰囲気が全く違かった。お香でも焚いてあるのか、独特の匂いがした。嗅ぎなれない匂いに頭がぼーっとして一瞬目眩のような感覚がした。
漫画は一冊も置いてなく、古すぎて誰が買って読むんだろうと思うような昔の週刊誌や、妬けて茶色くなり開くとパリパリと剥がれてしまうような姿をした小説本ばかりだった。
奥のレジのところにいる店主は丸く小さな鼻眼鏡をかけ、新聞を読んでいた。
あの店主が声をかけてきたのだろうか。
しかし、入り口のドアは閉まっていたし、あの位置から声をかけられたとしても、道を歩いていた自分に声が届くはずがない。
ただ勉強から逃げたくてこの街にやってきた。参考書などはもう見たくもない。どうやらこの店にはないようで少し安心した自分がいた。
こんな古ぼけた本が定価以上の金額で売られている。誰が買うんだろうか。手に取った本を見ながら考えていた。
ひと通り店内を歩き回り、ひときわ目を引く本を見つけた。
「テストの答え」
テストの答えというハードカバーのビジネス書のような一冊の本。全く意味のわからない題名の本だ。しかしその本から目が離せなくなっている自分がいる。導かれるようにそれを手に取った。
横から見ると誰も触れていないように見え、新品に感じられた。それでも古本屋なのだから誰かが売りに来たのだろう。
裏をみたが何も書いておらず、表紙を開いても著者が載っているはずのところにも何も書かれていなかった。
不思議に思いながらページをめくる。
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