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今日は付き合い始めた彼女が初めて僕の部屋にやってくる日だ。
いつもは散らかしているワンルームの部屋を朝から片付けた。
準備万端、のはずだった。
ミスに気づいたのは彼女が来てからだ。遅かった。
「お邪魔します〜」
彼女は僕の部屋に入ってきて、見回す。
「思ったよりきれいじゃん」
「だろ?」
この時はまだ気づいてなかった。
僕が自慢のコーヒーを淹れ、他愛もない話をしていた時。
彼女は僕の机の下に段ボールの箱があることに気づいた。
まずい、と思ったがもう遅かった。
「なに、あれ」
彼女は興味を持ったようで箱を見に行った。
「ああ、映画のパンフか」
そうだ。映画のパンフレットだ。
僕は映画が好きだったし、彼女とも観に行った。そして彼女じゃない相手とも…
彼女はその中から一冊恋愛映画のパンフレットを取り出した。
「こういうの嫌いじゃなかったっけ、恋愛もの」
「あ、あ、それ、恋愛ものが好きな奴がいてさ、あ、山下だよ、山下、知ってるだろ?知らないか。そいつが1人で行くの恥ずかしいから一緒に行ってくれってうるさくてさ、はは…」
ほんとうはバイト先で一緒だった女の子と行ったんだ。可愛かったなあ、あの子…どうしてるかなあ…
明らかに顔つきが変わった彼女は、今度はSF映画のパンフを取り出した。
「これ、大阪の映画館の名前が書いてあるけど」
パンフレットに映画館のハンコが押してある。
そういうのもあるのだ。
「あ、あ、それ、高校の同窓会で行った時さ」
そう、僕は高校まで大阪にいて大学から東京に出てきたんだ。
「みんなで映画見に行こうって話になっちゃってさ、俺SFには興味ないんだけどさ、もう、たいへんよ…」
ほんとはみんなで行ったのではない。
幼馴染の女の子に会ったんだ。久しぶりに会ったらずいぶん大人っぽくなってて、可愛くなってて、2人で映画観に行ったんだよな…また会いたいなんて言ってたよな…
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