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「俺は凛華が誇らしいよ。突然去ったこと、ずっと後悔してた。最後に会ったのは確か……」
「私が小学校一年の時だよ」
「そう。まだこんなに小さかった」
言いながら父は机の高さに手のひらを差し出した。「そんなに小さくなかったよ」と私がクスッとすると父も笑った。
「それがこんなに成長して、綺麗になって。一人で頑張ってる姿を間近で見られる日が来るなんて。嬉しくて……」
話す父の声は段々と震え始めた。目頭が熱くなったように眉間に皺を寄せて父は俯いた。
「お父さんまで泣いちゃうの?」
私が笑うと、「泣かないよ」と言いながらも父の顔は険しいままだ。
「……あんまり長居するのも悪いよね。ごめんね、夜遅くに」
気を取りなおすように時計に目をやると遠に日付を越していたので、父は立ち上がった。
「もう電車ないんじゃ……」
「どこかでタクシー捕まえるから大丈夫」
帰る支度をする父を見ると、胸の中がソワソワした。またどこかに行っちゃうかもしれない。そんな不安が頭の中を埋め尽くしていた。
「それじゃあ……」
「あのさ」
帰ろうとした父を、私は立ち上がって呼び止めた。「うん?」と父は私を見る。
「迷惑じゃなかったらだけど……よかったら泊まっていって?」
「でも凛華に悪いよ」
「ううん。全然。……むしろ一緒にいてほしいなぁ、って」
この年で親にそんなことを言うことになるなんて。羞恥心で頭から湯気が出そうなほど熱くなったけど、恐る恐る見た父の顔は笑っていた。
「うん。じゃあ、お言葉に甘えて」
父の返事が嬉しくて、私は笑ってまた父に抱きついた。父は私を優しく包み込む。心臓の鼓動が聞こえる。父は生きている。この上ない幸せに満たされながらあの頃を思い出していた。
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