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「で、隠し事してる?してない?」
母は詰め寄る。
父が母から鍵をもらってきたのだとすれば、母は父が私に会うことを許した、ということだろう。だからその後も実は会っていて、と言えば問題ないのではないだろうか。最悪私がここで宥めれば、父に火の粉が飛んでいくこともない。そう考えた私は意を決して口を開いた。
「あの……実は、さ。私最近、お父さんと会ってて」
私が言うと、母の息遣いがプツッと途絶えた気がした。
あれ、通話が切れた……?
「あの、怒らずに聞いて欲しいんだけど。私今お父さんと住んでて。あ、住んでるって言っても完全にじゃないんだけど、その、私がわがまま言って一緒にいてもらってる……みたいな? だからお父さんは何も悪くなくて……」
受話器の向こうは風音一つ聞こえず静かで、それが私の不安をより一層掻き立てた。
「お母、さん?」
本当に通話が切れているのか?そう思うと、すうっと息を吸う音が聞こえた。
「凛華。今どこにいる?」
「家だよ」
「一人?」
「うん」
「いい? よく聞いて。説明してる暇はないから、とりあえず今すぐ家を出なさい」
私の話を聞いて激怒すると思ったが、母は怖いくらい冷静にそう言った。
「怒ってる……よね? 黙っててごめん。でも……」
「怒ってないから。早くそこを出て」
「何で? 怒ってるからそんなこと言うんでしょ? 少しはわかるよ。お母さんが嫌いな人が一人で育てた娘と一緒にいるんだもん。怒って当然だよ」
「お母さんはお父さんのこと嫌いじゃないし、あなたのことも大事よ。いいから早く外に出なさい」
「どうしてよ?わかんないよ、嫌いじゃないなら何で……」
「お父さんは死んだでしょ?!」
冷静だった母は突然、そう叫んだ。それを耳にした時、時間が止まったように感じた。
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