お父さん

6/11
前へ
/11ページ
次へ
「で、隠し事してる?してない?」  母は詰め寄る。  父が母から鍵をもらってきたのだとすれば、母は父が私に会うことを許した、ということだろう。だからその後も実は会っていて、と言えば問題ないのではないだろうか。最悪私がここで宥めれば、父に火の粉が飛んでいくこともない。そう考えた私は意を決して口を開いた。 「あの……実は、さ。私最近、お父さんと会ってて」  私が言うと、母の息遣いがプツッと途絶えた気がした。  あれ、通話が切れた……? 「あの、怒らずに聞いて欲しいんだけど。私今お父さんと住んでて。あ、住んでるって言っても完全にじゃないんだけど、その、私がわがまま言って一緒にいてもらってる……みたいな? だからお父さんは何も悪くなくて……」  受話器の向こうは風音一つ聞こえず静かで、それが私の不安をより一層掻き立てた。 「お母、さん?」  本当に通話が切れているのか?そう思うと、すうっと息を吸う音が聞こえた。 「凛華。今どこにいる?」 「家だよ」 「一人?」 「うん」 「いい? よく聞いて。説明してる暇はないから、とりあえず今すぐ家を出なさい」  私の話を聞いて激怒すると思ったが、母は怖いくらい冷静にそう言った。 「怒ってる……よね? 黙っててごめん。でも……」 「怒ってないから。早くそこを出て」 「何で? 怒ってるからそんなこと言うんでしょ? 少しはわかるよ。お母さんが嫌いな人が一人で育てた娘と一緒にいるんだもん。怒って当然だよ」 「お母さんはお父さんのこと嫌いじゃないし、あなたのことも大事よ。いいから早く外に出なさい」 「どうしてよ?わかんないよ、嫌いじゃないなら何で……」 「お父さんは死んだでしょ?!」  冷静だった母は突然、そう叫んだ。それを耳にした時、時間が止まったように感じた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加