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家に帰ると真っ暗な部屋の中、誰かが立っていた。一人暮らしのアパートの一室。知らない人なのは明白だった。
「……誰?」
震える声で影に問う。
「落ち着いて。怖がらせるつもりはなかったんだ」
若くはない男の声が答えた。
「明かりを点けて」
自分が近づくのも怖いから指示をすると、影は難なく部屋の電気のスイッチを押した。カチッと音が聞こえた瞬間パッと白い明かりが部屋を照らす。そこに立っていたのは、すらっとスーツを着こなした中年の男だった。
「やっぱりわからない……よね。もう十年以上も会ってないんだから」
動かない私に男は言った。半信半疑の私は口を開いた。
「お父……さん?」
男はニコッと笑った。
まさか、そんな。
涙が勝手に頬を伝う。
やっと会えた。
疑う心は晴れ、気づくと私は父に抱きついていた。
「テレビ、ずっと見てた。頑張ってる凛華見てたらどうしても会いたくなって」
私は二年前、アイドルとしてデビューした。表に出た途端人気は急上昇、テレビで何度も取り上げられた。これも全て、小さい頃にいなくなった父と再会するため。その願いがようやく叶った今、押さえ込めない感情を言葉の代わりに涙と声で父に浴びせた。
「お母さんに頼んで鍵を借りたんだ。凛華を驚かせたくて。俺のことなんか忘れていてもおかしくなかったのに覚えててくれたんだ。嬉しいよ」
父はそう言って私の頭を撫でた。
ああ、懐かしいな。そう、父は本当に優しかった。厳しい母に怒られて泣いていると、いつも父がこうやって励ましてくれたっけ。
「会いたかった」
ようやく嗚咽が落ち着いた時、あの頃より近づいたがやっぱり高い位置にある父の顔を見上げて言った。泣き腫らして不細工になってるなんてその時は考えもしなかった。父は優しいからそんなことには触れず、ただ微笑んで「俺も」と答えた。
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