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誘いの葉書
喪上忌彦は昨年デビュー二十五周年を迎えた怪奇小説家だ。
大学在学中にデビューして以来、短編・長編合わせて二十五作の怪奇小説を生み出してきた。
土着信仰や因習、伝説に詳しい彼は、それらをもとにした闇の恐怖を描いて人気になった。
昨今のジャパニーズホラーブームもあり、彼の作品は発売されるとすぐに重版がかかり、夏などはサイン会や講演会に引っ張りだこだ。
また、テレビの『あなたは知らない世界』や『突撃!心霊探偵隊』でのコメンテーターを引き受け、作品に似合わない爽やかな風貌でお茶の間でも知られた存在だった。最近では深夜のグルメ番組の案内人役でもお馴染みになっていた。
「あなた。お葉書が届いていますよ」
喪上が書斎で新作の構想を練っていると、妻がノックもせずに書斎のドアを開けて入ってきた。
喪上は慌てて木箱の蓋を閉める。
「仕事中はノックをしろと言ってるだろう!」
「あら、ごめんなさい。でも、これを早く見せたくて」
妻はそう言うと、喪上の机に葉書を置いた。
東北のある県の消印のある葉書だった。
── 百物語をあなたに
夏の暑さがまだ残るこの秋、あなたに涼しさをお届けしたく、素敵な催しをご用意いたしました。
題して、『季節外れの百物語』。
ぜひ紅葉美しい加多里山へお越しください。
ご参加いただける場合、10月△日午後五時に以下の場所へお越しください。
東北某県加多里郡
JR××線加多里駅
駅舎を出ていただきますと、お迎えの者がお待ちしております。 ──
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