催し

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催し

「ほお……」  懐かしかった。  学生時代に一度だけ訪れたことがある場所だった。  葉書に差出人の名前はなかったが、すぐに見当はついた。 (手の込んだことをやるなあ)  喪上はにやりと笑った。  確かあれは、その県で活動する歴史民俗研究会が文化系の学術賞を受けた、その記念のパーティーだった。喪上は特別講演を依頼され、出席していた。  パーティーは八月に入ってすぐ、東京のホテルで開催された。  そこで喪上はその地方の素封家で郷土史家としても知られる磯田(いそだ)という初老の男に声をかけられ、少しの間立ち話をした。 「喪上先生、この夏の東京の暑さには辟易されているのでは?」  磯田は笑顔で話しかけてきた。 「まあ、家に居る分にはいいですが、こうやって都心に出てくると流石に堪えますね。出歩くなら秋になってからがいいものです」  喪上が答えた。 「実は面白い趣向の催しを企画しておりましてね」  磯田は喪上に近寄って囁く。 「先生にぜひ審査員をお引き受けいただきたいと思っているんです。準備が整い次第お知らせをお届けしますので、紅葉狩りがてらぜひわが県に足をお運びください」 「それはぜひ」  社交辞令としてそう答え、喪上は磯田の元を離れた。  だからすぐに葉書は磯田からだとわかった。百物語の審査員とはなるほど面白い。それに磯田の住む県は東京より北にあり、紅葉が始まっていてもおかしくない。  秘書に連絡して予定を確認すると、開催日の翌々日にたまたまその県の県庁所在地でサイン会の予定があるという。  自分は一人で前乗りし、サイン会当日に会場に行くことを秘書に告げ、加多里駅までの切符の手配を命じた。
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