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「チエミさん」
扉の真横でピアノに耳を傾けていた私に、赤い眼鏡を掛けたインテリ系の青年がシャンパングラス片手に声を掛けてきた。
爽やかに流した黒髪とスッキリとした顔立ち。
俗に言う狐顔に近い。
フォーマルな黒スーツとシルバーのストライプのネクタイがよく似合ってて、落ち着いた雰囲気と清潔感がある。
中村利一28歳。
妖艶に微笑む彼は今日の主催者であり、豊子先生の1人息子でもある。
職業、住所共に不明。性格未知数。とにかく秘密主義者。
「どうぞ」
綺麗に口角を上げ、彼が私にスマートに差し出してきたシャンパングラスの中味は、カクテルなんて小洒落たものじゃなく、ただの葡萄ジュースだ。
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