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ZERO
「待たなくていいのに」
頬を撫でる潮風がポツリと呟いた言葉を掻き消す。
午後19時。港から出航した大型のクルーザーが、汽笛を鳴らし、乗客を乗せてゆったりと3時間の旅に出る。
上品かつ豪華に装飾された船内は、船の中とは思えないくらい煌びやか。
真っ白な船体が闇夜に映え、水面に反射した都会の光が、スカイデッキの照明と合わさり私のピンクの振袖を優しく照らす。
約500名が参加する船上パーティー。
日本舞踊の師範である中村豊子先生の還暦祝賀会で、名の知れた名家の方々やお弟子さん、豊子先生のファン、その他関係者が集まっている。
「誰がこんなこと……」
その華やかな場からこっそりと抜け出した私……チエミ15歳は、スカイデッキの片隅で手に持ったメッセージカードをマジマジと見つめた。
白い便箋に入れられた差出人不明の“真っ赤なメッセージカード”。
光沢のある厚紙で出来たそのカードは、2歳年上のお兄ちゃんが亡くなった翌月から届くようになった。
今が3月だから去年の8月から。
一月に一度。毎月欠かさず決まって月命日の20日に届く悪趣味なそれには、毎度ふざけた言葉と一緒に数字が書き込まれてある。
今回は“5”その前は“6”さらにその前は“7”だった。察するに次はきっと“4”だ。
カウントダウンか何か?
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