120人が本棚に入れています
本棚に追加
「お兄ちゃん……」
波の音が鼓膜を揺らし、結い上げた髪に挿した簪がチリンと音を立てる。
桜をモチーフにした1本簪。
大小のビーズが沢山あしらわれた桜色の簪は、お兄ちゃんが亡くなる3日前に買ってくれたものだ。
これを見る度に『おぉ!似合うじゃん』と、無邪気に八重歯を見せて笑っていた、お兄ちゃんの笑顔を思い出す。
言わば形見のようなもの……。
「はぁ…」
熱くなった目頭を誤魔化すように、ぎゅっと目を閉じ、小さく息を吐く。
いつまでもここでグダグダしていられない。
いい加減、戻らなきゃ……。
落ちてきた気持ちを切り替え、スカイデッキに別れを告げて船内のパーティー会場へ向けて歩き出す。
最初のコメントを投稿しよう!