ZERO

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「お兄ちゃん……」 波の音が鼓膜を揺らし、結い上げた髪に挿した(かんざし)がチリンと音を立てる。 桜をモチーフにした1本簪。 大小のビーズが沢山あしらわれた桜色の簪は、お兄ちゃんが亡くなる3日前に買ってくれたものだ。 これを見る度に『おぉ!似合うじゃん』と、無邪気に八重歯を見せて笑っていた、お兄ちゃんの笑顔を思い出す。 言わば形見のようなもの……。 「はぁ…」 熱くなった目頭を誤魔化すように、ぎゅっと目を閉じ、小さく息を吐く。 いつまでもここでグダグダしていられない。 いい加減、戻らなきゃ……。 落ちてきた気持ちを切り替え、スカイデッキに別れを告げて船内のパーティー会場へ向けて歩き出す。
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