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1話:木下ゆきいろ。
高校二年生の僕は、知り合いの喫茶店でアルバイトをしている。なかなか忙しい喫茶店で、コーヒー、ソースカツ丼、卵スープが看板メニューである。
喫茶店の看板としてはもう一つあって。
夕方、西日が彼女の頬を照らす。
微笑んだ瞬間にできるくっきりしたえくぼ、真っ白なフリル付きワンピース、銀髪は苺を象ったシュシュでポニーテールにまとめられている。
小柄な彼女は力がなく、皿を一つずつしか運べないが、一生懸命な健気さに男女問わずメロメロになっていた。
縁次えるる、誰もが彼女を『天使ちゃん』という。
普段はイラストを描いたり、作曲して歌ったり、物語を書いたりとクリエイターとして活動しているらしい。
一方で稼げないため、喫茶店でアルバイトをしているそうだ。
といっても、『天使ちゃん』であればすぐに人気が出そうだが。
「ゆきいろくん、その、テーブル開けてくれませんか?」
木下ゆきいろ、それが僕——平凡高校生の名前だ。
エルルは両手を合わせ人差し指を絡めて、僕の反応を窺っている。
非力な少女がお客様の帰ったあとのテーブルの皿を運んでテーブルクロスで拭くよりも、愛想もお客様人気も当然ない地味男がテーブルを片付け、美少女なエルルちゃんが接客した方がいいに決まっている。
「もちろん、僕がやっておく。お客様の対応はよろしくね」
「はい、頑張ります! ゆきいろくん、ありがと!」
アルバイトは僕を合わせて三人。
もう一人は女性で、まだ新人のため店長やエルルちゃんに教えてもらいながら働いているらしい。
多忙なときにシフトが入る僕とは、まだ一度も被ったことがないが。
そのため、美少女エルルちゃんが僕の名前を覚えてくれているのも、こうして名前を口にしてもらえるのも、アルバイトが多くはないのでおかしな話ではないが、こうして話せると嬉しいものだ。
なんて思っていたが。
バイト中に起きた大事件によって、僕とエルルちゃんの距離は急接近することになった。
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