0人が本棚に入れています
本棚に追加
3話:デート
エルルちゃんと恋人になって初めてのデートが始まった。
用事が入っているらしく、十一時から十五時の四時間だけだが、僕なりのメニューを考えた。ショッピングモールを選ぶのは普通すぎただろうか?
始めは昼食を食べて映画館へ行くつもりだったが、調べてみると映画館デートはレベルが高いらしい。
デート中の会話の数が減る、デートの良し悪しが映画の内容に直結してしまう、拘束時間が長くややもったいないなど、デメリットも少なくないようで。
服を選んで買うデートにした。
「わあ、私コート持っていないので嬉しいです」
「今年は寒くなるようだから」
「手袋もあった方がいいですよね?」
「人によると思うけど、あった方がもちろんいいと思うよ」
エルルちゃんはコートも手袋も持っていないのか。
最近は寒いから家に置いていないのは変わっていると思うけど。
エルルちゃんのこと、全然知らないな。
「ここに住む前はどこにいたの?」
「田舎ですよ。本当に何もない、退屈な。楽しいことがないわけじゃありませんが」
「ネットやパソコンさえ使えればクリエイター活動できますもんね」
「そうですね!」
「その銀髪って」
「祖母から私まで受け継いだものみたいですよ」
「ロシアとか?」
「あー、」
エルルちゃんは一瞬考え込む。
「たぶん? 自信ありませんが。そうだ、コートは高いので大変ですが、手袋ならお揃いにできますよね!」
「え、あ、うん」
エルルちゃんの思いがけない提案に驚いてしまった。
嬉しいけど、まるで拒否しているような対応になってしまったかな?
手袋を購入する。
エルルちゃんのコートを買い物袋に入れて、男として僕が持ち歩くが。
……想像以上に重いかもしれない。
「何食べます?」
フードコートにはカップルや子連れが多かった。
どの店も列ができているが、回転率も高く問題なさそうだ。
しかし、テーブルが次々と埋まって座れるか不安だ。
「席、取っておきましょうか?」
「先にエルルちゃんが選んでいいよ」
「ふむふむ、そう来ましたか。決めました、私はたこ焼きにします!」
「分かった。待っているよ」
「ゆきいろくん、たこ焼きの回転スピードは驚異的なので、ついでに買ってきてください。待っていますよ?」
と、エルルちゃんはにっこりと微笑む。
恋人に頼まれた以上、たこ焼きミッションは必ず完遂しなければならない。
とはいっても。
舟皿に乗ったたこ焼きを運びながら、ポケットに呼び出しベルを入れるのは、恋人がいる特権かもしれない。
一人では経験できないものだ。
「ゆきいろくん、何にしました?」
「僕は鉄板焼き肉にしました」
「ふむ。私はたこ焼きを一つ上げます。なので焼き肉を少しください。……って、たこ焼き代まだでした」
うん、お金もらっていないことに気づかなかった。
恋人と来ることができた嬉しさと、『天使ちゃん』の笑顔にやられてしまって、脳がまともに機能していない気がする。
「いいよ、お金は」
「ありがとうございます。なら、言葉に甘えて」
「エルルちゃん、今日は来てくれてありがとう」
「彼氏が誘ってくれたので当然です! 嬉しかったですよ」
彼氏って響きがまずいい。
それに、嬉しいと言われると舞い上がってしまう。
「今日は、その、綺麗だよ。似合っている」
「お世辞ですか? デートに行ったら相手を褒める的なマナーがあるとかないとか。そういう堅苦しいのは要りませんよ、ゆきいろさんらしいところを見たいと思っているので」
「ありがとう、僕に興味を持ってくれて」
「制圧するところを見せてしまったのに仲良くしてくれるので、良い人だって思っていました。やっぱり、良い人かは重要なんですよ。そういうので判断するので」
良い人か、あのとき店長は引いていた。僕はかっこいいと思ってしまった。
むしろ『天使ちゃん』が弱々しい存在ではなく、したたかで神々しい存在だったことが、僕の好みに合っていたのだ。
「エルルちゃんって昔格闘技とかやっていたの?」
「やっていましたよ、いろいろ。なんて言うと武道家みたいですね」
エルルちゃんはリスのように頬にたこ焼きを詰めながら食べる。
割って覚ましながら食べるものだと思っていたが熱くないのだろうか?
うん、平気そうだ。
「鳴った。焼き肉取ってくる」
「楽しみ、私絶対食べるので」
いたずらっぽく語りかけてくる。
普段敬語の分、いざため口を使われるとドキッとしてしまう。
もちろん、一緒にいるだけでも心臓は鳴りっぱなしだけど。
最初のコメントを投稿しよう!