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4話:天使ちゃんのリスト
食事を終えて。
ゲームセンターで遊ぶことになった。
クレーンゲームが気になったらしい。
魚のぬいぐるみが欲しいそうだ。
僕が奢ろうとしたけど、やんわりと断られた。
「ゆきいろさんは応援してください」
とはいうものの、むずがゆく感じるレベルで下手くそだった。
ぬいぐるみは一度近づいても、次にはまた戻ってしまう。
ぬいぐるみに対して同じだけクレーンをずらせば近づくだろうが、近づけた直後はクレーンを止める操作がワンテンポ遅れている。緊張のせいかもしれないが。
「やろうか?」
「やりません。自分でやるんですよ」
お金を入れて再挑戦していたが。
合計二十回やったところで。
「あ、ない! ない!」
エルルちゃんは必死に小銭入れを探るが銅色の硬貨と一円玉、ようやく見つけたと思っても穴がある五十円玉だった。
「あ」
ついに財布をひっくり返してしまう。
「宝石付きの指輪? なにこれ」
「婚約指輪ですよ、断ったのにくれて。高いのに」
「エルルちゃん」
「はい」
「婚約指輪をいつも持ち歩いているの? なんのために?」
「高いのに、なくしたら大変なので」
結局、僕が自腹を切って三回ほどで取った。
婚約指輪を持ち歩いているのも、そのおかしさに気づいていないのも嫌になった。
僕が好きだった『天使ちゃん』は、人の気持ちを理解できない人でなしのように思われた。
「ゆういろくん、どうしたの? 指輪で怒らせちゃった? 次からは置いてくるよ。ごめんなさい」
「こちらこそ、いじけてごめん」
一回謝り合ったが、どうしても靄が残る。
その正体はすぐに分かった。
「キャッ」
エルルちゃんは男と衝突して倒れてしまった。
そのとき、エルルちゃんの鞄から透明のファイルが出てくる。
僕はエルルちゃんの手を取って起き上げた後、ファイルを鞄に戻そうと手を伸ばしたが。
「私がやるから、」
「おい。エルル、証拠掴んだぞ」
「え、何?」
「俺は十六時からエルルとデートをする彼氏だ。これはなんだ? 隣の男は?」
「それは、」
修羅場だ。
エルルちゃんが当たったのは彼氏を名乗る青年だった。
怒鳴っていて、エルルちゃんは怯えている。
また振られた人間だろうか?
と、エルルちゃんの前に出て庇おうとしたときだった。
「俺は今日監視したからな。そして、その彼氏リストを持ち歩いていることも見た。彼氏に昼食を買わせる間にファイルを出してな。なあ、そいつは何点なんだ、それに何股だ? ええと、」
ファイルに挟まった紙を僕に見せてくる。
「最高点だってよ、良かったな。十五股だが。で、また引っ越しか?」
「いいでしょ、別に。何股でも。いい思いもしてあげたはず。それに、嫌ならどっか行けばいいでしょ? 私にはまだまだ十四人の彼氏がいる。もう減点だから、いなくなってください」
「それを目の前の、十五番目の彼氏様にも言えるのか、ああ?」
夢か?
夢じゃないらしい。
エルルちゃんが十五股している?
用事があって今日は十五時までって。
僕が手に取ると、そこには点数とデート時間、いわゆるABCの進み具合についてが書いてあった。そこには他にもいつデート予定が入っているかも書いてあった。
「ゆきいろくん、ごめんなさい。でも最高点は本当だから、このままいけば大丈夫だから」
エルルちゃんに焦りが見える。
男はしてやったりという表情をしていた。
「エルルちゃん、僕は大丈夫だよ。何番目でもいい、君と一緒にいたい。大好きだから」
男は悔しそうに消えていった。
「ねえ、今日は夜までデートしよ。できるようになったから」
エルルの中に罪悪感はなさそうだった。
だから僕は。
僕を馬鹿にするようなエルルちゃんを、
『殺してやりたい、そう思ったんだ』
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