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5話:僕らの審判
先日、彼女の十五股が十四股になった。
今思えば、喫茶店で襲ってきたのは何股もしているからだろう。
十五股を許したことになっている僕は、エルルの中で好感度が最も高い彼氏らしい。
無防備なおかげでリストを写真に収めることができた。
エルルがいつどこで何をしているかが分かるようになった。
おかしな点は多い。
クリエイターとして話していた活動時間に彼氏とのデートが組まれていた。
本当はクリエイターなどしていないのだろう。
十四股してそれぞれに点数を付けていて、不合格としてリストに線が引かれている人もいた。
恨まれるのも仕方がない。
加えて、出身地の話が曖昧だったり、昔何をしていたのかが曖昧だったりするのも変だ。
コートも手袋も要らないと言っていたため、比較的温かい沖縄の方に住んでいたのだろうか?
喫茶店で元彼? を返り討ちにした人間離れした格闘術はよく分からないが。
恋人としての初デートをした日、いい思いもしたはずだと元彼に言っていた。
だから僕は初めての行為をするため、あらゆる覚悟を決めて、僕はエルルを個室に誘うことにした。
できるだけ薄暗くて雰囲気があるホテルを選んだ。
「初めて? だよね」
「はい。エルルちゃんが初めてです」
僕たちはホテルに入ってすぐ部屋を選ぶ。
初めての行為だ、覚悟は決めている。
「なら私が部屋を選ぼうか?」
「実は事前にリサーチして、コスパも良くて、広い場所を見つけています」
「ありがと」
銀髪がなびく。
一瞬甘い香りに覚悟がぶれそうになるが理性で押さえつけた。
「行こうか。すごい緊張していますね。私得意なので任せてください」
「いや、準備してきたから」
「鞄、重そう」
「初めてなので何が必要か分からなくて」
エルルは口元に手を当てて笑う。
「部屋は調べているのにね。そんなに道具があって、私をどうするつもりですか?」
「中身についてはすぐ分かりますから」
部屋に着く。
「どうする? シャワー」
「いえ、なしがいいです」
「え、ええ。急にハードな」
「それと緊張を抑えたいので、電気も」
「消しておきますね。これ、暗くて何も見えないと思いますが」
「まずベッドに隣通しで座りましょう」
エルルの手が僕の腿に触れる。
僕はエルルを持ち上げて、初めてのキスをした。
表情は見えないが、もう大丈夫なはずだ。
背中に隠していたそれを取り出す。
「ゆきいろくん、鼻息荒いよ? それに、耳も赤い。それに、何で涙出ているの?」
……え?
「暗いのに見えるの?」
「ぎくっ。特技みたいな。だからね、そこにある、縄も見えているよ。急に、ハードな、」
ばれた。
だめだ、だめだ、だめだ。
僕はあらかじめ作った円にエルルの首を通す。
力強く締めた。
「エルル、このクズが。あのリスト、ふざけ、」
光った。
エルルの頭に光の輪がある。
縄が締めにくい、よく見ると翼が見えた。
どういうことだ?
「クズを評価して人類を滅亡させる判断を神様にしてもらうつもりだった。そうだよ、私は本当の天使ちゃん、あのリストは神様に見せるもの。クズのデータを集めて説得する。くそ、信用したのも、苦手な力加減のために弱体化して地に下りたのもミスだった。神は人間を神に似せて作り過ぎた、これでは」
首を絞める。
殺す覚悟をしてきたつもりだった。
でも、エルルは光となって消滅した。
殺人の証拠はなくなったのだった。
僕は寝転んで天井を見る。
大好きな人は十五股で、天使で、殺すと光だった。
なんて、愉快なんだ。
「ははは、あははは」
こんな馬鹿なことがあって堪るか。
——
エルルがまとめたリストを神が入手した。
人間を滅ぼすべきと綴られていたが。
神は。
「人間ごときに騙され殺されるものは、神の使いにあらず。天使ではないのだから、これは要らないな」
天使ちゃんのリストは焼けて消えたのだった。
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