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私はこくりと頷いた。もちろん電話越しの南には見えないのに。でもなぜか伝わったように、南の声が優しく頭を撫ぜる。聖母のように。
「私、ふたりのこと、ずっとお似合いだと思ってたよ。嫉妬して意地悪したくなっちゃうくらい」
「……ありがとう、南」
「結婚式には呼んでね。挨拶するよ。新婦友人代表兼、新郎の元カノとして」
「うわあ。こわいなあ」
「冗談冗談。でも、ついでだから懺悔、きいてくれる? もう全部すっきりしたい気分。とっくに時効だと思うから話しちゃうね」
「懺悔?」
「私、高二のとき、菫ちゃんに嵐くんのこと紹介される前から、嵐くんのこと知ってたの。すきだったの。菫ちゃんと仲良くなりたいなあって思って話しかけたのも、嵐くんと菫ちゃんが仲良いの、知ってたから。ごめんね、性格悪くって」
「そんなこと、」
「でも、嵐くんがいなくたって、菫ちゃんとは友だちになったと思うし、菫ちゃんのこと、好きになったと思う。嵐くんのこと大好きだったけど、大好きだけど、同じくらい菫ちゃんのことも、私、大好きだから。菫ちゃんと嵐くんが、ほんとうに結婚したって、ものすごくくだらない理由で喧嘩別れしたって、私はこれまで通り、ふたりの友だちでいるつもりだから、安心してね。……嵐くんがいるとこ、いま送ったよ。迎えに行ってあげて」
言い投げて、余韻も残さず途切れる通話。
通話状態から切り替わった画面にメッセージ受信が通知され、確認すると、南からだった。
とあるレストランを紹介した予約サイトのURLと待ち合わせの時間。それに、まるっこくて可愛らしい、うさぎを模したキャラクターが黄色いポンポンを振っているスタンプ。女の子が手書きしたようなピンクの丸文字で「ファイト」と添えられている。
まだ高校生だった冬、大学受験直前に南からもらった赤い包装のチョコレート菓子。その裏面に書かれた南の「ファイト」の文字を思い出した。
嵐のもとへ急いだ。
南との通話が切れた時点では待ち合わせの時間まではかなり余裕があったけれど、いつも嵐を待たせる羽目になっていた私は今こそ余裕を持って嵐を待つがわになろうと決意して足を踏み出した。それなのに結局途中で道に迷って、約束のレストランに到着したときにはきっかり約束の時間を迎えてしまっていた。
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