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つい先ほどまで外を歩いていた私の手は冷たく、逆に室内にいた嵐の手はあたたかい。
違う温度の体温に包まれ、ああ、ほんものの嵐なのだ、嵐が私の手を握っている、そう思ったら、もう、どうしようもなかった。
触れただけで、魂がふるえる。
そんな相手、きっと探しても、地球上に嵐、たったひとりだけだ。
どうして、今まで会わないでいられたのだろう。
こんなに魂が求める相手を。大切な半身を。
どうして、会わずに生きていられたのだろう。
嵐と別れてからの人生、八年間のすべてが今と切り離され、どこか遠い場所に置き捨てられてきたかのような気分になった。
昨日までのことや、数分前の、嵐と目が合い「菫」と呼ばれる以前のこと、全部から現実感が抜き取られて、どこかで誰かが体験しただけの遠い記憶になって色褪せていく。
そして、せかいがたった今、触れた瞬間に創造された。
「私も。ずっと、会いたかった」
私たちは生まれたてのせかいの片隅で、下手な笑みを交わし合う。
何度でも、互いの名前を呼びながら。
会わずにいた期間の、欠けた互いの情報を隅々まで補うように話をした。
次々に運ばれてくるコース料理のほとんどにはわずかばかり手をつけるのみで、絶え間なく喋り続けて渇いた口腔内を潤すためだけに、途中、私は一杯だけシャンパンを飲み、嵐はシャンパンのほかにワインも数杯飲んだ。
ちょっと背伸びしたレストランで食事をして、ちょっと背伸びしたホテルに泊まりたいと、南がおねだりをしていたらしい。
記念日ですら、南がそのような類のおねだりをすることはこれまでにまったくと言っていいほどなかったから、嵐は珍しいことだと感じながら、けれど可愛い恋人のためにきちんと事前のリサーチを重ね、南が気に入りそうなレストランとホテルの予約をとっていたらしい。
性格悪い、を自称していたわりに、南はお膳立てが過ぎる。用意周到、と言い表してもいい。
せっかくのデザートまでも大して味わうことのないまま見送ってしまった頃には、話すこともあらかた尽きてしまった。
八年という歳月を語り尽くすのにかかった数時間が果たして長いのか短いのかはわからない。いつしか閉店時間が間近に迫り、周囲にはほとんど客は残っていなかった。
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