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言葉を消費しすぎたのか、いつしか無言になった私たちはかたく手をつなぎあったままレストランを出た。会計の際、嵐が店員に「全然食べなくてすみません」と謝り、店員が柔和な表情で頷いた。
金曜日の賑やかな夜の街を、手を繋ぎ、肩どうしをくっつけるようにして歩いた。言葉を失った私たちは互いになにも言わず、けれど気持ちは同じだった。
予約済みのホテルに入った。
私は少し酔っていたし、嵐もそうだった。
そして私は、少し、いやかなり、気が大きくなっていたのかもしれない。生まれ直したような気がしていたから。ばかげたことに、今だったらきっと大丈夫だと、根拠もなく、信じていたのかもしれない。
それは私たちにとって、いつかの続きだった。それ以外の選択肢はどちらにもなかった。
部屋の中央に置かれた驚くほど広いキングサイズのベッドに、縺れるようにして身を沈める。
覆いかぶさった嵐が、丹念に、私を食べる準備をする。慎重な手つきで服を脱がせて、一杯のシャンパンが含んだアルコールで火照った肌を、熱でさらに柔らかく溶かすように、丁寧に触れる。
繊細に、淫らに、遠慮がちに、大胆に、嵐の美しい指先が肌のうえを滑れば滑るほどに、身体の芯から悦びが湧き起こり打ちふるえるのを感じた。
——と、同時に、あのとき感じた恐怖が頭をよぎる。
それは。異性の腕の下に組み敷かれること、力ではけして敵わない相手に征服されることへの恐怖、ではなく。
不完全な自分が晒されることへの、恐怖。
「……嵐、」
乳房と形容することすら憚れるほどの小さな胸のふくらみの、先端を舌でなぞるおとこが、呼ぶと目だけで答えた。
上目遣いに私を見詰める、まつげの影、瞳のなかの美しい星。あまりにも妖艶で、めまいがした。
激しい情欲の色を滲ませた、どこまでも魅惑的なひとりのおとこが、いっそ滑稽なほどに念入りに、溺れるように一心不乱に愛撫しているのは、色気などないに等しい、申し訳程度にふくらんだ胸、成熟とは無縁の、いまだかたく閉じきった、大人とも子どもとも呼べない、中途半端な私の身体。
あまりにも不釣り合いな、自分と嵐の身体が触れ合っているさまを目の当たりにしてしまうと、泣きたくなった。涙腺が満ちて、溢れる寸前のところでやっとの思いで留まっている。
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