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頷くと、嵐は言葉のとおり、私を身体ぜんぶで抱きかかえるようにしながら、ゆっくりと揺さぶりはじめる。何度か抜き差しするうちにスムーズに動くようになって、粘膜が擦れるたびに快感が押し寄せた。
なんにも意味のない行為を、この世でいちばん大切なものに触れるみたいにして為していく嵐が、あまりにも愛おしかった。私たちは、あまりにも滑稽だった。
やわやわと動いて、もしかしたら刺激が足りないのではないか、私に合わせて加減して嵐は気持ちよくなんてないのではないかと懸念したけれど、おとこはしっかり、達した。
私を抱きしめて、私のなかで、欲を吐き出す。どくどくと流れ、内部に広がる情欲の結晶を、まぶたを閉じて受けとめた。
避妊具はつけていなかった。嵐はつけようとしたけれど、私が拒んだ。つける意味がないのだから、わざわざ面倒な動作を加えて無駄なごみを増やす必要はない。
子宮に放たれた精液は、どうなるのだろう。少しの時間体内にとどまって、そのうち流れ出ていってしまうのだろうか。あるいはただのたんぱく質として、私の身体の栄養分として多少でも吸収されたりするのだろうか。吸収されればいい。少しでも嵐とおなじになれればいいと、目を閉じたまま祈った。
すべてをなかで吐き出した彼が、絞り出すように何往復か出し入れして、それが終わったあとも私のなかに居続けている。
抱きしめたまま、どちらからともなく口づけた。
高校生の頃のようにただ翻弄されるだけということはなかった。口腔を自由に蠢く舌に自分から寄り添い、触れ合う。朔郎さんとの数年の付き合いのなかで、何度試しても成功しない性交を諦め、その分重ね続けたのはこういう深い口づけだけだった。
くっついた唇と唇の隙間から、嵐がひっそりと笑う音がする。
「ほんとうは、簡単なことだったのかな」
「え?」
「ずっと、こうしたかった。俺の手で、菫を、汚したかった」
「汚れて、ないよ。嵐はいつも、綺麗だよ」
腕のなかでそう返すと、嵐は自嘲するような声音で言った。
「すきだった、ずっと。もうおぼえてないくらい、ずっと昔から、菫だけが」
「うん、たぶん、私も。ずっと嵐が、すきだった」
いつまでも嵐は、私のなかから出ていこうとはしなかった。
出ていったら、終わりなのだと、互いに直感していた。
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