終章

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 私の告白になにひとつ口を挟まずにすべて聞き終えた朔郎さんは、少しの沈黙ののち、いつも以上に柔らかく優しく微笑んだ。 「もちろん、身体の触れ合いは大事だと思います。それで成り立っている関係性も世の中にはたくさんあるでしょう。俺だって、したくないと言えば嘘になる。でも俺は、それをしたいから菫ちゃんと付き合いたいわけじゃない。菫ちゃんと、今よりももっと一緒にいられる、明確な理由が欲しいんです。菫ちゃんと、一緒にいたいだけなんです」  ——思い出して、胸の底が甘やかに焦げついた。  朔郎さんは大きな愛だ。不完全な私をそのまま包み込んで愛してくれる。  だから、この道が正解なのだ。私に降り注いでいること自体が奇跡的なほどの身に余る幸福が、手のなかでそっと握りしめられるのを待っている。掴んでいいのだと口ずさんでいる。  それを理解した途端、息苦しいほどの罪悪感が喉もとまで迫り上がってきて顔を歪ませた。 「朔郎さん。私、言わなければならないことが、あるの。謝らなければならないことが」  眼前の彼にかぶさるように、頭のなかにちらちらと最後に会った嵐のすがたが浮かんでは消える。  いちばん大切な宝物に触れるように私を抱いた彼。美しい彼。  かつての私の半身。 「でも、言いたくないの。身勝手だし、不誠実だし、間違っているのはわかってる。でも、まだ。私だけの、大切な思い出にしておきたい。ごめんなさい」  呆れるほどエゴイスティックな主張と自己満足に他ならない謝罪ですら、朔郎さんは優しい微笑で包み込んでしまう。 「いつか言いたくなったら、言ってください。ちゃんとききます。いつか、一切が過ぎていったら」  あの日。完全に事を終えてしまった後も未練たらしくつながったまま、しばらくそのままでいた私たちは、けれどそれも限界を迎えて、かぎりなく肌をくっつけあったままベッドに潜った。足を絡ませ、嵐の裸の胸に口づけるような姿勢で、その腕に抱かれていた。  そして、寝物語に十年越しの事実を知った。  母親がいなくなってからの嵐は、大人の女性を抱いた対価として金をもらう生活をしていたこと。ちょっと背伸びした、どころではない、すごく豪華なホテルに、何度も何度も、違うおんなのひとと泊まったことがあること。
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