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毛先を緩く波打たせた長い髪を後ろでひとつに結んで、春色のシンプルなワンピースを着ている。化粧はナチュラル風でなく本当にナチュラルで、限りなく素肌に近い透明感があるけれど、さりげなく薄桃色のアイシャドウがまぶたに乗っている。
大学生の頃はサロンのカットモデルをしていて、今は派遣社員として、嵐が勤めているような大きな企業の本社ビルの受付嬢をしている菫は、年相応に化粧をおぼえ、上手に髪を巻き、自分の容姿にぴったりはまった衣服とアクセサリーを身につけている。
「菫ちゃん。ぎりぎりセーフだね」
「ふふふ」
でも、得意げに笑うと、高校生の頃の印象とおなじく少し幼くなる。
ホテルの庭園が見渡せる窓際のソファ席に私たちは向かい合って座った。
三段式の豪奢なティースタンドに、数種類のスイーツ、スコーン、サンドウィッチ、マリネなどの軽食。どれもひとくちで頬張ることができるほどの大きさで、きっちりふたつずつ並んでいるすがたがなんとも可愛らしい。
スイーツはほとんどすべて、いちごとルビーチョコレートを使用しているらしく、ティースタンド全体が、薄いものに濃いもの、この世にある様々な種類のピンク色を集めたように色鮮やかに染まっている。
そして、一杯のシャンパン。
私たちは大人の女性らしく、まずはシャンパンで乾杯をした。
私はどちらかと言うと甘味よりもアルコールのほうを好むけれど、菫は真逆で、シャンパンに口をつけるのもそこそこに、はやる気持ちを抑えきれない様子で、皿とフォークを手にしてスイーツをいくつか取り分ける。ショートケーキ、タルトレット、マカロン、などなど。すぐに白い陶器の皿が華やいだピンクの庭になる。
私がシャンパングラスに唇をつけたまま、口内に広がるしゅわしゅわとした炭酸を舌先でころがしているあいだにも、菫はひとつめのスイーツにフォークを刺している。
ラズベリーとルビーチョコレートのオペラ。酸味のあるラズベリーとルビーチョコレートにどっしりと濃厚なガナッシュは相性抜群に違いない。
「おいしい?」
「最高。南も食べよう」
「食べる食べる」
誕生日の幼い子どもみたいにはしゃいだ菫に少し笑いながら、私はスコーンに手を伸ばした。
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