25歳ーⅠ

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25歳ーⅠ

 目が覚めて上半身を起こしたら、自分が裸のままだと気づいて、きっとまた意識を失うように眠りに落ちてしまったのだと思った。  中途半端に開いたままのカーテンの隙間から、夜が朝に変わる瞬間の青白い光が寝室に差しこんでいた。  中身は半分以上眠ったままの頭で枕元に置かれた時計を確認しようすると、その動きに反応するように傍らの肢体がうごめいた。起こしてしまったかと一瞬身構える、けれど、それはただの寝返りのようだった。  私と同じく、何ひとつまとっていない背中を猫のように丸めて、鼻先まで布団に潜らせる。寒いのだろうか、と考えて、思い出したように剥き出しの肩から二の腕のあたりが震える。午前5時05分。  一度目が覚めてしまうと——そしてもう朝になっているので——、夜具を共にした男に引っついて暖をとる気にもなれず、そっとベッドから抜け出した。キングサイズのベッドの周りには、私の服と彼の服と、私の下着と彼の下着が行儀悪くぐちゃぐちゃに脱ぎ散らかされている。  夜に取り残された欲望の残骸。あるいは理性の抜け殻。そして私たちの日常。  熱を失ってずいぶん経つそれらを、ひとつひとつ拾い上げては脇に抱えながら、裸足でぺたぺたと床を鳴らして歩く。  薄明の淡い光をたよりにしてバスルームに向かい、洗面台の前に立ち、鏡に写った自分と目を合わせた。寝起きのくすんだ肌が明るすぎるほどに発光する照明の下に晒される。顔から首、胸の膨らみへと視線を滑らせていくと、左の鎖骨、に、赤い円形のしるしが刻まれていた。  恐らく歯型。浮いた骨を噛んだようだけれど、いつ噛まれたのだろうか、記憶にはない。  他にも跡がついていないかと、シャワーを浴びながら自分の身体を観察してみた。腕、足、腹、太腿の付け根。けれど結局見つかったのは鎖骨の噛み跡だけだった。  ふたりぶんの汗とか涙とか、それ以外の体液とか。いろんなものに濡れては一度乾いて、ひび割れた肌が、43℃のシャワーによって柔らかくほぐれていくようだった。湯水に溶け出た昨夜の痕跡はただの生活用水になって、排水溝に吸い込まれて消えていく。  湯水があたった場所から古い肌が剥けていっては、その下から新しい肌が生まれるような、この瞬間だけは、私の身体は私だけのものなのだと実感する。
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