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「ちょっと強いから、あさちゃんは炭酸で割って、ハイボールにしようか」
「飲めるかな」
本当は、酒を飲むのはいやだ。お酒の味がわからないのも理由だけれど、それに以上に、私は酔いたくなかった。
酔ったら、自分が考えてること、隠していること、本当のこと、嘘のこと、全部がごちゃごちゃになって、なにか言ってはならないことを口走ってしまうのではないかと不安になるから。
我を失うほど酔ったことなんてないけれど、私はいつも、それを恐れている。
律は逆に、私に我を失わせたがる。
「きっと気にいるよ」
今よりもさらに深く、完璧に、私を堕とすために。
都心のタワーマンションにふたり暮らし。
高いところから街を見下す部屋での暮らしは、外界に閉ざされた、ふたりだけの世界だと思うことがある。
もし地上が焼け野原になって人類がみんな死に絶えても、ここにいる私たちだけは、水族館の水槽みたいに厚い厚いガラスで隔絶された部屋の中で、地上の変化などなにも気づかないまま、ふたりだけの生活を続けるのだろう。
なにも気づかない、あるいは、何も気づかないふりをして。
今日もまた裸で眠りに落ちる。
べつにそれが習慣なわけではないけれど、せっかく着た寝間着が脱がされてベッド下に放り捨てられる日々が、そしてそれを拾い上げることなく、お互い疲れ果てて意識を失うに眠る、その頻度が、最近どんどん増している気がする。
日本において、パートナーとの就寝時に裸である人たちの割合は非常に低い。けれど欧米では、裸で同衾するカップルはかなりの数存在しているらしい。
私は純日本人なので裸で寝るのは落ち着かないし、どれだけ知った相手であっても、寝る時まで肌と肌をくっつけあって過ごすのはどうしても気が引ける。
でも律は裸の肌と肌をくっつけあったまま、いつまでもそのままでいられるし、そうしていたいタイプらしい。それは彼が、幼少から高校卒業までの思春期をすべて海外で過ごしたことに起因しているのかもしれない。
いくら気が引けても、律が望むことを私が拒む権利は、この部屋においては、私たちの関係においては、ない。
散々抱き合ってもまだ足りないみたいに、戯れに足と足とを絡ませて、相手の腰に手を回して、その姿勢のまま眠る彼と自分の身体の間で。
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