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私は助手席から身を乗り出して、男の股のあいだに頭を埋めていた。
反り立ったそれを、頬張り、舐り、先端を吸って、溢れだす雫を飲み下した。
両手の指を根本に添えて、舌を下から上に這わせ、唇を往復させる。
ただ、喋ることも歯を立てて反抗することも許されず、ひたすらに、彼の気が済むまで。
次第に、顎が疲れて。舌が痺れて。気が遠くなって。それを吐き出そうとすると、頭をがっちりと抑え込まれ、逆に、喉奥までむりやりに開かれ、押し込まれ、息ができなくなる。
髪の毛を掴まれ、上下に動かされる。痛くて、苦しくて、視界が滲んで赤くなる。
そうやって、散々、私を玩具にしながら、絶頂に達する直前に、動かすのをやめる。だからいつまでも彼は達しない、その行為は終わらない。
知らず溢れた涙が、彼の服を濡らしていた。もうどのくらいそうしているのかわからない。身体はいっそう冷えて、口のなかのそれだけが滾るように熱かった。舌と唇の感覚はいつしかなくなっていた。
逃がさないようにと後頭部に置かれた手だけが、時折、私を労わるように、いいこいいこするように、髪を撫ぜた。彼の指示でこまめに美容室でトリートメントをしている、よく手入れされた指通りの良い髪を、堪能するように。
飴と鞭。
それはまるで、人間じゃなくて、躾を受けている動物にでもなった気分だった。
翌日。
出社しようかも正直迷ったし、避けようかとも迷ったけれど、先に話をしておいたほうがいいと決心して私は赤羽さんのところへ向かった。
彼は、昨日のことなんてさっぱり忘れたかのようにあっけらかんと笑って、はじめて私が自分から、彼のところへ出向いてきたことを素直に喜んだ。
一挙手一投足が目立つ彼を休憩に誘って外に出る。ちょうど昼時だったので、昨日食べ損なった焼肉代わりにビフテキ定食にした。
はじめて一緒に食べたときからすでに数ヶ月も経っていること気づく。困ったり、慄いたり、恐れたりしながら、振り返ってみれば愉しい期間だったと、素直に思った。じんわりと切ない感傷が胸に去来した。
「昨日、あれから大丈夫でした?」
肉を頬張りながら、なんてことない世間話の延長のように訊ねられる。
私は答えなかった。その沈黙をどう受け取ったのか。殊更に明るい声を出す赤羽さん。
「彼氏さん、めちゃくちゃかっこいいっすね。芸能人ですか」
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