20歳

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「えー、なんで?」 「なんとなく」 「すごい。律のほうこそ、エスパーかも」 「あさちゃんがわかりやすいんだよ」 「そうかな?」 「だって、髪。シャンプーとトリートメント、変えたでしょ。そういうのにまったくこだわりがないあさちゃんが、あえて違うもの、しかも前よりも香りが強くて質も良いのを使うようになったのは、気持ちの変化かなって」  ずばり言い当てられ、私はしばし言葉を失った。  律は私の変化によく気づく。彼にはどんなささいな隠しごとも、最後には暴かれてしまうのではないかと思ってしまう。エスパーではなくて名探偵だ。私だけの。 「……律には勝てる気がしないな」  だからこそ私は、律のことを、心のどこかで恐れている。  冬休みに入る直前の大学は、普段以上にざわざわと賑やかだった。クリスマスとか正月とか、それに同学年の大抵の学生は年が明けると成人式もある。大学生ほどイベントごとを毎回、細大漏らさず律儀に愉しんでいる生き物はいない。  午前の講義が終わって、近くの席同士で座っていた数人の集団のまま教室を出る。学部棟も出て、中庭を横切って学食を目指す。中庭の銀杏の木はすっかり葉が落ち、枝がすべて剥き出しになっている。  入学直後のオリエンテーションで席が近くて、それからなんとなく一緒に行動するようになった、男女複数人のグループ。メンバーはきっちり固定されているわけでもなく、何があっても絶対に一緒の男子ふたりを除けば、流動的で自由な集団だった。高校の化学で習った、ファンデルワールス力という言葉を思い出す。くっついたり離れたりをふわふわと繰り返すゆるい結合。  私もこうやって一緒の日もあれば、同じ授業に参加していても別々のこともある。互いに関与しすぎない、べたつかずさらりとした関係はとても楽だ。  わたしはふわふわとした結合の隅で、自己主張せず、他人を否定せず、悪口を言わず、ただぼんやりと笑っている。当たり障りのない無害な人間ならば、どんなにつまらない人間であったとしても、居場所がなくなることはない。  学食のテーブルにつくと、いつのまにかクリスマスの話題でみんな盛りあがっていた。彼氏がいる女の子と彼女がいる男の子は、もちろん恋人同士で過ごすらしい。ああでもないこうでもないと各々の聖夜のプランを披露し合っている。恋人がいない面々は、カラオケだとか飲み会だとか、なんとか予定を入れようと話を進めているようだった。
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