20歳

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「麻乃ちゃんは、クリスマスは予定あるの?」  会話を外側から眺めている気になっていた私は、ふいに名前を呼ばれて輪のなかに戻された。向かいの席の柿谷くんから話しかけられたのだとわかり、私は彼に向かって首を横に振った。 「特にないよ。残念ながら」  彼の、黒縁の眼鏡のフレームを見つつ答える。そして、同い年なのにどこか大人びた彼が発した「麻乃ちゃん」という響きをひそかに心のなかで反芻する。律の、きっと幼少の頃からまったく変わらない「あさちゃん」とは、まるで違う、どこか色っぽい音だった。 「そうなんだ。意外だな」 「ええ? だって一緒にすごす恋人はいないし、誘ってくれるひともいないし」  と自虐すると、眼鏡の奥の瞳が静かに、まっすぐに私を見詰めた。 「じゃあ。俺が、『誘ってくれるひと』になってもいい?」    その日の夜。また律が家に遊びにきていた。  前と同様、朱音さんが帰ったあとにふたりで映画を見る。映画がつまらないのも同じ。律と見る映画はなぜか大抵つまらなかった。  ふたりしてただ流れているだけの映像を見る気もなく眺めながら、しなくていいような中身のない会話を続ける。画面にクリスマスツリーとプレゼントにはしゃぐ子どもが映し出され、それでやっと、映画がクリスマスをテーマにしたストーリーだったのだと気づいた。  律もそうらしい。そして大学生らしく、クリスマスのことを話題にあげた。 「あさちゃんのお父さんはきっと仕事でしょ? 24日は朱音さんが来る曜日でもないし、一緒に夕飯たべよう」  私に予定がないことを前提にして話を進める。 「小さい頃、うちでクリスマス会をやったことがあったよね。プレゼント交換したのおぼえてる? あれ、ひさしぶりにやろうよ」 「ごめん、私、予定があるの。だから残念だけど、」  私の言葉を遮って、 「例のすきなひとに誘われでもしたの?」  と問う、その目は私をじっと捉えていた。  見定めるような、観察するような瞳。なんだか居心地が悪くなる。 「……うん」 「へえ。それはよかったね。おめでとう」 「うん。ありがとう。律と過ごせないのは残念だけど、プレゼント交換は、私もしたいな。25日はなにもないから」 「そうだね」
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